井岡一翔への「夢みたいな」代役世界挑戦権を得た“リトル・パッキャオ”福永亮次は番狂わせのドラマを起こすことができるのか?
ここから福永の急成長が始まる。 昨年2月にWBOアジアパシフィック王座決定戦で、世界ランカーでもあったフローイラン・サルダール(フィリピン)を7回TKOで下してタイトルを奪取。年末には、日本、OPBF東洋太平洋の“3冠”をかけて中川健太と対戦して10回TKO勝利した。 見守ってきた奥村トレーナーが、こう証言する。 「今まではセンスだけで倒していた。でも頭を使って考えるようになった。スパーでもラウンド間に色々考えるようになった。そこが変わった」 被弾覚悟で前へ出るだけだった豪快な倒し屋が、「パンチをもらいたくない」と奥村トレーナーに訴えるようになったというのである。 「考えなかったら上に上がれない。強い選手は、しっかりとガード、ディフェンスができている。ガードが大事だと思い、やるようになった」 ディフェンスの粗さが、福永の欠点だったが、そこを改善してきた。 精密機械のようなカウンター技術に優れた井岡の攻撃をどこまで防ぐことができるのか、は疑問だが、ウィークポイントが露呈する前にパンチ力と勢いで圧倒するしかないだろう。 “リトルパッキャオ”の異名を持つ。引退した元6階級制覇王者のマニー・パッキャオ(フィリピン)に風貌が似ていて、激しいファイトをすることから、浅野マネージャーがサルダール戦の前に命名。リングアナに選手紹介で“リトル・パッキャオ”とコールしてもらうようにお願いした。 井岡との世界戦が決まり、ネット上では、福永の名前より“リトル・パッキャオ”の呼び名が先行した。SNS上で「本家に失礼」などの声が書き込まれていることを知らされ「名前に負けない試合をしたい」と言う。 パッキャオも、建設現場で働いていた時期があり、2001年に2つ目の世界ベルトとなるIBF世界スーパーバンタム級王座を獲得したのも、予定されていた挑戦者が相次ぐケガで辞退となり、たまたま巡ってきた代役挑戦だった。 「それも言われるんですよ。でも持っているんですよ。運だけはある」 シルベスター・スタローン演じる“無名”のロッキー・バルボアが、代役挑戦者に指名されるストーリーの映画「ロッキー」にも重なるが、「ロッキーは見たことがない」と笑う。 奥村トレーナーも「しかもロッキー負けてますやん」と突っ込んだ。 昨年の大晦日は、井岡が元3階級制覇王者、田中恒成(畑中)と戦った防衛戦を見にいく予定だったが「仕事が終わらず行けなかった」という。 ボクサーのファイトマネーより大工仕事の収入が多いという“リトル・パッキャオ”は、大晦日にとびきりの人生ドラマを見せてくれるのだろうか。 「人生をかけて人生を変える」 ボクシングに絶対はない。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)