《ブラジル》記者コラム=ジョブスより幸せ度が高い白寿移民 「私は世界で一番幸せな男です」
ジョブス「いま思えば仕事をのぞくと、喜びが少ない人生だった」
世界最大のテクノロジー企業アップルを創業して、世界的な名声を獲得し、巨万の富を貯築いたスティーブ・ジョブズ(1955―2011年)が、56歳で病没する直前に残した言葉は、次のようなものだったと言われる。 《私は、ビジネスの世界で、成功の頂点に君臨した。他の人の目には、私の人生は、成功の典型的な縮図に見えるだろう。しかし、いま思えば仕事をのぞくと、喜びが少ない人生だった。 人生の終わりには、お金と富など、私が積み上げてきた人生の単なる事実でしかない。病気でベッドに寝ていると、人生が走馬灯のように思い出される。(中略) この暗闇の中で、生命維持装置のグリーンのライトが点滅するのを見つめ、機械的な音が耳に聞こえてくる》との寂しい心象風景が描写される。 その上で《(富や名声よりも)もっと大切な何か他のこと。それは、人間関係や、芸術や、または若い頃からの夢かもしれない。終わりを知らない富の追求は、人を歪ませてしまう。私のようにね》と自らの華やかな人生を振り返った。
最後に《私があの世に持っていける物は、愛情にあふれた(ポジティブな)思い出だけだ。これこそが本当の豊かさであり、あなたとずっと一緒にいてくれるもの、あなたに力を与えてくれるもの、あなたの道を照らしてくれるものだ》と世界が誇る明晰な頭脳は指し示した。 つまりジョブスにとって「私があの世に持っていける物は、愛情にあふれた思い出だけだ。これこそが本当の豊かさ」が一番価値のあるもので、家族や周りとの人間関係こそが、富や名声に勝る最上の宝だとの感慨が込められている。 15日午前にブラジル日本文化福祉協会で開催された白寿者表彰式を取材しながら、改めてジョブスの言葉を思い出し、当地に移住して99歳以上を迎えた皆さんの「幸せ度」は高いと感じた。
坂本明さん「私は、世界で一番幸せな男です」
市井の移民だが、ジョブスより幸せ度が高い人もいる。例えば、頼まれたわけでもないに表彰された返礼をしたいと申し出て、壇上でマイクを握ってポルトガル語で次のように元気に語った坂本明さん(99歳、和歌山県出身)だ。 「皆さんに感謝します。みんなが助けてくれたおかげで、長生きしました。私は、世界で一番幸せな男です。 私は10歳でブラジルに来ました。当時は、飛行機がありませんでした。今はビューンと飛んでこれますが、あの頃は船だけで45日間かかりました。私はモジアナ船のコーヒー耕地に入植しました。皆さんに感謝します。ここにいる皆さんにも幸せを!」と手短に語ると、かぶりつきにいた、彼の世話をしているであろう娘さんやお孫さんの一団からは、まるでひいきの人気歌手に贈るような大歓声が上がっていた。 坂本さんは途中「じゃあ、日本語で」と言いかけ、たどたどしい1世のポ語から切り替えようとした。だが、結局は最後までポルトガル語でしゃべりきった。普段、自分を世話してくれている人たちの顔をみて、そう判断したのだろう。 自分の意志でなく、10歳の時に親にブラジルまで連れられ、以降の89年間をこの地で過ごし、子孫を増やして良好な関係を築き、大事にされて老後を過ごしている様子が、その一場面から感じられた。 家族に支えられて長生きして「自分は幸せだ」と感じている坂本さんは、きっと「幸せ」がお金なら世界有数の大金持ちに違いない。