交通事故で脊髄損傷、国が定めたリハビリ期間180日で退院迫られる実態…最長2年のモデル事業で支援検証
交通事故で重度の脊髄損傷を負って入院中の患者が、同じ病院で最長2年間入院してリハビリを受けられる国土交通省のモデル事業が福岡、大阪、神奈川3府県の4病院で行われている。国が定めた重度脊髄損傷のリハビリ期間(180日)内では、リハビリが十分でないにもかかわらず、退院を余儀なくされるケースが起きており、同省は事業を検証し、事故被害者の支援につなげる。(岡林嵩介) 【写真】自転車事故で脊髄損傷「死のうとも思ったが、動くこともできなかった」…ヘルメット着用の大切さ訴える長江浩史さん
福岡県久留米市など4病院が対象
「足を動かしましょうね。リハビリは慣れましたか」。事業の対象に選ばれた福岡県久留米市の「久留米リハビリテーション病院」の関連施設で昨年11月下旬、交通事故で寝たきり状態の女性(70歳代)(東京都)に理学療法士が声をかけながら体をほぐしていた。
2022年10月、夫(同)と旅行で訪れていた福井県内で車を運転中に軽乗用車と衝突し、女性は脊髄を損傷した。気管切開の手術を受けて転院し、3か所目の病院で人工呼吸器を外すなどした。厚生労働省は、リハビリ入院できる期間を対象疾患ごとに定めており、重度脊髄損傷は180日が上限となっている。病院側からは「これ以上入院できない」と退院を迫られたという。
そんな中、気管切開の患者にも対応し、リハビリも受けられる久留米リハビリテーション病院を見つけ、23年4月に入院。現在も自宅復帰に向け、夫がたんの吸引や食事の介助ができるようにリハビリを続けている。夫は「この病院がなければ、どうなっていたか分からない。いずれは娘家族がいる地域で在宅療養できるようになれば」と話している。
年間6000人が脊髄損傷
公益社団法人全国脊髄損傷者連合会によると、年間約6000人が脊髄損傷を負い、患者は推計約15万人。18年の疫学調査では、損傷の原因の2割を交通事故が占める。
重度の脊髄損傷の場合、自宅に戻れるような状態に回復するまで数年単位の入院が必要との意見もある。一方、リハビリ入院期間は180日以内と定められており、同期間を超えると診療報酬の算定基準外となり、病院側の負担が増えるため、ほとんどの病院では6か月で退院を促している実態がある。