あなたの信じた「物語」って何ですか? 陰謀論に陥ったことのある人たちに聞いてみた 「社会への違和感」「よく分からない正義感」
渡辺は、陰謀論を信じる人たちは、社会に対する違和感や危機感といった「はしご」を上っていき、荒唐無稽な世界にたどり着いたと分析する。そして、こう警鐘を鳴らした。 「ディープステート(闇の政府)や人肉食といった陰謀論を、われわれは嘲笑の材料にしているが、物語としてのインパクトは強い。そこに引き寄せられるきっかけは、社会にまん延していると考えるべきではないか」 ▽息子に「ばかやろう!」 豹変した母 東京都内に住む30代の男性が、離れて暮らす60代の母親の異変に気付いたのは、2020年初夏のことだった。 新型コロナウイルスの感染拡大により、直接会うことは難しくても、電話などで連絡は取っていた。だが、理解できない内容のメッセージがLINEで送られてくるようになった。 「米国ではセレブたちが子どもを誘拐し、血を吸っている」 「世界を裏で動かすディープステート(闇の政府)が存在する」
外出できずにいる中で、インターネットにあふれる根拠のない情報を信じ込んだのだろうか。そう思っていると、母親は中国人を攻撃する文章も送ってくるようになった。 「差別的な内容を看過できなかった」。父親に「陰謀論に染まっている」と懸念を伝えると、それを耳にした母親から電話がかかってきた。 「誰が陰謀論者だよ! ふざけんじゃねえ! ばかやろう!」 「そんなことを言うやつがバカなんだよ!」 電話口からは、激しい罵声が飛んできた。それまでの母親からは想像できない口調や言葉遣いだった。ショックで、電話を持つ手が震えた。 母親は「正義感のある頑張り屋」だった。特定のイデオロギーにとらわれたことはない。なぜ、母親は変わってしまったのか。陰謀論に関する本を読み、親族が陰謀論に陥った人たちとオンラインで交流する機会も持った。 陰謀論を信じる人は「生活や日常に不安や不満を感じている人が多い」と思う。母親も学歴コンプレックスを抱えていた。