レスリングの東京五輪代表内定第1号にグレコ60kg級で銀メダル以上確定の文田健一郎
レスリング世界選手権3日目(カザフスタン)の9月16日朝。グレコローマン60kg級の文田健一郎(23、ミキハウス)は、リオ五輪銀メダリストの太田忍(25、ALSOK)から「優勝したからな」と念を押された。太田は前日の15日に、五輪で実施されない63kg級で世界チャンピオンになっていた。そして「決勝へ行ったら、応援してやるよ」と言葉が続けられた。この半日後、準決勝をテクニカルフォールで勝利し決勝進出を決め、東京五輪出場切符を手にした文田は、朝の太田とのやりとりを思い出しながら、ご褒美が嬉しい子供のように「えへへへ」と笑うと「もうたぶん、心から応援してくれるとは思います」と続けた。 太田が条件付きの応援を宣言したのは、本来は2人とも60kg級で東京五輪を目指してきたためだ。日本レスリング協会があらかじめ発表した選考基準では、2019年世界選手権でメダルを獲得すれば、その時点で2020年東京五輪代表に内定する。もし文田が決勝にすすめば2位以上になりメダルが確定するため、太田は60kg級で東京五輪を目指せなくなる。2人はライバルであってライバルでない。 「忍先輩がいなかったら、僕はいないと思います。本当に、あの人に食らいついていく中で、世界でも戦えるようになったので、本当に大きな存在ですね。あの人がいなかったら、今の僕はいないです。そこはもう、確信を持って言えます」 文田にとって五輪は、2012年にロンドン五輪を生観戦したときの憧れの夢舞台。だが、2016年のリオ五輪では出場選手の練習パートナーとして現地入りし、大学の先輩である太田や、大学同期の樋口黎が銀メダリストとなるのを目撃し、具体的な目標に変わった。 次こそは自分もと東京五輪への道が動き出した2017年、柔軟性を生かした反り投げが面白いように決まり、文田は世界選手権で優勝した。2018年の日本代表争いでは太田に軍配があがり、いよいよ2019年、東京五輪の出場枠がかかる年の代表争いが始まると、なんとか代表の座を奪い返すものの、かつての鮮やかな活躍とはほど遠い姿を国際大会で繰り返した。 「2019年になってから、自分の中で納得がいく試合はありませんでした。とくに国際大会はすごくいやな内容ばかりで、結果を残せなかったり、出場できなかったり、色々とありました」 自身でそう振り返るほど、最近の国際大会は成績も内容も振るわなかった。4月のアジア選手権では2回戦で敗れたのを敗者復活戦からなんとか盛り返し3位入賞。その後の欧州遠征では最下位に終わった。