森保ジャパンは"贅沢な時代"?三笘薫・中村敬斗らアタック陣の、ワールドクラスに近い代物とは
|技術の幅が判断の選択肢を増やしている
技術の幅が優れた判断の土台となっているという意味では、森保ジャパンのアタック陣も例外ではない。とりわけ、左ワイドで躍動する三笘薫(ブライトン=イングランド)と中村敬斗(スタッド・ランス=フランス)の2人は象徴的存在かもしれない。 何しろ、ひとたびボールを持てば、縦突破を狙って良し、カットインを試みて良し。当然、守備側は最初の段階で彼らの狙いを絞り込めない。縦突破一辺倒やカットイン一本槍という特化型とは明らかに違うからだ。 例えば、相手が5バックでがっちりと守っている場合はガンガン縦に仕掛ける。それというのも、ゴールをめぐる攻防は「5対5」の同数で、1人かわせば、ドミノ式に相手のマークがずれる。その結果、ゴール前で待つ味方の誰かがフリーになりやすいわけだ。 10月15日に開催された北中米ワールドカップ・アジア最終予選のオーストラリア戦(△1-1)における同点ゴールは、これに近い。左サイドを縦に切り裂いた中村の鮮やかな突破からの折り返しが守備側のオウンゴールを誘っている。 中村の売りと言えば、鋭いカットインと、したたかにネットを揺らす得点力。だが、縦に仕掛けて決定機をつくり出すだけの才覚も十分に備わっているわけだ。 日本人アタッカーの中では別格の実力を誇る三笘以外にも卓抜したスキルを持つ左ワイドの適材がいるのだから、何とも贅沢な時代である。無論、当の三笘にも触れないわけにはいくまい。 いつ、どこで、どのようにパスをもらい、仕掛け、ラストパスを送るか、あるいはフィニッシュに持っていけば良いか。一連のアクションにおける判断と技術は、ワールドクラスに近い代物だろう。 1度、うしろに下がり、守備者がつられて前に出てきた瞬間、一気に背後へ走って、パスを引き出す《チェックの動き》もタイミングが絶妙だ(図3も参照)。
先に触れた縦への突破とカットインの二択も、敵味方の位置関係や戦況に基づいて、冷徹にジャッジを下す。私利私欲とは無縁なのだ。 また、技術の幅が判断の選択肢を増やしている点では多彩なラストパスも同じ。縦に深々とえぐってからのカットバックに加えて、敵の虚を突くアーリークロスまである。何の前触れもなく、右足のアウトでボールを押し出すから、守備側はお手上げだ。 無論、多彩の意味はパスのアングル(角度)だけにとどまらない。ボールを浮かせるのか、転がすのか。手前か、奥か。速いか、遅いか。高低から距離、速度に至るまで、自由自在にカスタマイズされる。それも、どんなラストパスが最適かを絶えず考えながらプレーしていることの証だろう。 当たり前のようにも思えるが、その実は肝心な場面でアバウトな判断を繰り返し、好機を逃す選手もいる。そもそも適切なジャッジを下すだけの余裕がないからだろう。いかに技術の幅を広げ、有益な情報を手にするかが、優れた判断の出発点かもしれない。
サッカークリニック編集部