躍進続ける「キコ・コスタディノフ」、ウィメンズ手掛けるデザイナー姉妹が成した功績
ファニング姉妹手掛ける「キコ・コスタディノフ」ウィメンズラインの特徴とは
初期に発表されていた「キコ・コスタディノフ」のメンズラインは、泥臭いワークウェアをモードなカッティングで再構築したデザインが特徴だった。 しかし、ファニング姉妹によるウィメンズラインは、これが同じブランドのコレクションなのかと思うほどに、デザインの方向性が全く異なっていた。二人のデザインの特徴が現れたコレクションとして、まず2021年春夏ウィメンズコレクションを見てもらいたい。 ファニング姉妹のウィメンズラインでは曲線を多用したカッティングが頻繁に使われ、服のラインが植物の蔦のようにうねっていく。2021年春夏シーズンではジャケットの前端が波型のカーブを描き、レイヤードしたシャツも曲線に作られた形に見える錯覚を起こし、トロンプルイユ的な効果も発揮していた。ファニング姉妹は有機的なカッティングで服に非現実感を起こすのだ。 ボリューム感もファニング姉妹の大きな特徴である。ボリュームと言ってもバルーンシルエットのようにエレガントな形ではなく、服の形状が歪であることが多い。 「肩をそんなに膨らませなくもいいのでは?」 「膝にその膨らみは必要なのか?」 ファニング姉妹のウィメンズラインではノイズとなるボリュームを作り出し、ファッション伝統の美意識であるエレガンスを拒否する。 また、ファニング姉妹は比較的スリムなシルエットの中で、凹凸のあるフォルムをデザインしていることにも注目したい。川久保玲やジョン・ガリアーノ(John Galliano)など、特異な造形を製作するデザイナーは他にもいるが、ファッションデザインの傾向では、エレガンスと対極にある特異な造形はダイナミックに製作されることが多い。しかし、ファニング姉妹のフォルムデザインはスリムなシルエットの中で作り上げられているという特徴があるのだ。 一見シンプルなシルエットのパンツルックも、膝に注目すると布をつまんだ膨らみが確認できる。フェニング姉妹が滑らかな形を作ることは少ない。クリーンな服に見えそうになったら、ノイジーなボリュームを挟んでリズムを崩す。 色彩の組み合わせも「キコ・コスタディノフ」のウィメンズラインでは見逃せない。2023年春夏ウィメンズコレクションでは、冒頭からブラック&ホワイトの無彩色ルックが続くが、ショー中盤からファニング姉妹の色彩センスが発揮されていく。 複数の色が一つのルックの中で混在するのが、ファニング姉妹のカラーテクニックである。ヴィヴィッドともフェミニンとも違う不可思議な感覚を覚える。ピンクやレッド、イエローといった明るい色を使用しているのに、彩度が低くドライなムードだ。 パンツルックでは、先述した曲線のカッティングと色彩センスを合わせたデザインが登場した。一目見れば、スリムシルエットの中で奇異なディテールが作られていることがお分かりいただけるだろう。 ウィメンズラインでは柄と柄をぶつけ合うアプローチも特筆すべきポイントだ。 2024年春夏ウィメンズコレクションでは、ストライプが主役だった。直線柄の向きを縦と横で魅せたほか、グリーン系統とオレンジ系統といった異なるカラーをトップスとスカートで組み合わせ、色の混在を巻き起こした。 セットアップでもストライプを使用する大胆な手法を見せるが、柄向きを所々で変化させている。ジャケットでは胸部は縦向きだが、袖や胸部から下部はストライプの柄向きが斜めになっている。パンツは膝にドレープが集中して、直線の柄が渦巻きのような表情を見せる。 ファニング姉妹はフォルムと同様、色と柄もシンプルに見せることをしない。見る者の感覚を掻き乱すことを楽しむように、服を複雑怪奇に作り上げていく。 以上のルックからファニング姉妹のウィメンズラインが、コスタディノフ自身が手掛けるメンズラインと大きく異なることを感じていただけたと思う。実は、メンズラインもある時期を境に初期のモード化したワークウェアから大きく転換することになるのだが、それは後述する。