ロケットラボ、「火星サンプルリターン計画」でNASAに再考求める–民間で競争させるべき
Rocket Lab(ロケットラボ)は、米航空宇宙局(NASA)が進める火星の試料(サンプル)を地球に持ち帰る(サンプルリターン)計画「Mars Sample Return(MSR)」について自社のアプローチの方が効率が良いと主張し、計画の再考を求めている。 MSRは、現在火星で稼働している探査車(ローバー)「Perseverance」が集めているサンプルを着陸機(ランダー)に搭載された上昇機(アセンダー)で打ち上げ、火星を周回する帰還機(オービター)とドッキングし、地球に持ち帰るというもの。 しかし、米議会から予算の高さが問題視され、NASA長官のBill Nelson氏も「(MSRの)110億ドル(約1兆7000億円)という予算は高すぎるし、2040年より後にサンプルを持ち帰るという計画は遅すぎる」として、見直しが進められていた。 NASAは、2024年6月にサンプル回収手段の研究で7社を選定。12の案が提案され、「MSR戦略検討」(MSR Strategy Review:MSR-SR)と呼ばれるチームが検討作業を進めていた。 NASAは米国時間1月7日、今後1年半をかけてMSRのための2つの新アーキテクチャを研究すると発表した。 1つは、2012年から火星で稼働しているローバー「Curiosity」やPerseveranceのためにジェット推進研究所(JPL)が開発した「Sky Crane」(スカイクレーン)着陸システムを使用してランダーを送り込むというもの。もう一つは企業が開発する「Heavy Lander」(ヘビーランダー)を使用して、同じランダーを届けるというものだ。 Rocket Labもサンプル回収手段を研究していた(先に挙げた7社の発表から数カ月後にNASAから研究契約を獲得している)。Rocket Labの提案は、NASAが以前考えていたものに似ている。Rocket Lab版MSRは以下のような流れ。 アセンダー(Mars Ascent Vehicle:MAV)を搭載したランダー(Mars Lander Vehicle:MLV)が火星に到着。MAVはサンプルを収納するコンテナ(Orbiting Sample:OS)を格納している。 MAVがOSを火星から打ち上げ、火星を周回しているオービター(Earth Return Orbiter:ERO)がOSを捕獲して、地球に帰還する。EROに搭載されたOSからサンプルを再突入専用カプセルを移して地上に届ける。 以上のような流れでサンプルを回収できるとするRocket Labは、同社の提案はNASAの計画よりも迅速かつ安価に実現できると主張している。 NASAが現在検討している2つのMSRアーキテクチャのコストは58億~77億ドル(約9200億円~1兆2000億円)が見込まれ、サンプル回収は2035~2039年に実施される見込みだ。 対するRocket Labは、40億ドル(約6300億円)未満で2031年までにサンプルを持ち帰れると主張している。同社のバイスプレジデントRichard French氏はNASAに対し、MSRの研究を続けるのではなく、商業的な競争にプログラムを解放するように求めている。 海外メディアのSpaceNewsによれば、French氏は「NASAがリーダーシップを発揮したいのであれば、商業的能力に傾注し、大胆に競争することだ」と発言。加えて、1月20日から始まる「新政権が(同社の)提案にどう応えてくれるのか期待している」(French氏)とも話している。 Rocket Labの考えでは、NASAは最初に複数の提案を選定し、初期研究の後で、1つの案を選んで修正版MSRを進めることになるという。NASAが現在検討している2つの選択肢を研究するために、2025会計年度の最終予算案で少なくとも3億ドルが必要とFrench氏は指摘している。 1月20日から始まる米新政権では、民間宇宙飛行ミッションを手がける実業家のJared Isaacman(ジャレッド・アイザックマン)氏がNASA次期長官に指名されている。
塚本直樹