仏典によれば地獄の刑期は最短1.7兆年!?宗教学者「表現はものものしくとも具体的中身のない<地獄>をヒトが伝承してきた理由は…」
◆それぞれの地獄と罪状について 刑期はいずれもとんでもなく長いが 一番短い等活地獄で約1.7兆年、下に行くにつれて年数の桁が上がっていく。 最後の無間地獄が、最悪の者が行く最大に過酷で最大に刑期の長い地獄である。それぞれの地獄と罪状との関係については、次のような設定となっている。 まず、罪状には1殺生、2偸盗(ちゅうとう)、3邪淫、4飲酒、5妄語、6邪見(仏教の因果の道理を謗ること)、7犯持戒人(尼僧などを犯すこと)、8父母と阿羅漢の殺害(など)の八種がある。 そして等活地獄は1だけの罪人を収監する。黒縄地獄は1+2を犯した罪人を収監する。以下、衆合は1~3、叫喚は1~4、大叫喚は1~5、焦熱は1~6、大焦熱は1~7ときて、最悪の無間地獄は1~8の全部の罪を犯した罪人が行く。 何とも妙な設定だ。殺生を犯せば等活地獄で罰を受け、殺生と偸盗の両方をなせば黒縄地獄行きだ。
◆論理的記述ではなくレトリカルな描写 だが、偸盗だけならどうなるのかは不明である。殺したが盗まず、淫行はやるが酒は飲まず、しかし仏教の悪口を言いふらしている者はどうなるのだろうか? 実のところ、これは、論理的記述ではなくレトリカルな描写なのである。罪の種類と地獄の種類の対応関係が話のポイントなのではない。 著者の狙いは罪を重ねることの由々しさを聴き手に伝えることである。 幾度も幾度も1、2、3……と頭から戒律を数え上げることになるので、教理の暗記に便利ということもある。実に教育的だ。 というわけだから、各地獄における細かな罪状と細かな刑罰の区分も、論理性を伴っていない。どの地獄にも16個のサブの地獄が付属しており、その描写が長いのだが、分け方にも記述の仕方にも、教理らしい構造性がまるでない。 たとえば、殺生を犯した者の堕ちる等活地獄の場合、副地獄「屎泥処(しでしょ)」は鹿や鳥を殺した者が行く。 「刀輪(とうりん)処」は物を貪り生物を殺した者が、「瓮熟(おうじゅく)処」は生物を殺して煮て食べた者が、「多苦(たく)処」は人を縄で縛る、棒で打つ、遠国に追放する、崖から突き落とす、煙(けむり)責めにする、 あるいは子供をみだりに怖がらせるなどを行なった者が、「闇冥(あんみょう)処」は羊の口や鼻を塞いで殺す、あるいは亀を二つの瓦で挟んで圧殺した者が、「不喜(ふき)処」は法螺貝や太鼓で恐ろしい音をたてて鳥獣を殺した者が、「極苦(ごくく)処」は欲望のままに勝手放題に生き物を殺した者が行く。 以上、見て分かるようにかなり恣意的な分類だ。それぞれの罪状に対する刑罰も、糞責め、虫責め、火炙(ひあぶ)り、甕(かめ)で煎るなど、思いつくままに並べてあるだけだ。
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