<ハラスメント時代の会話のコツ>雑談を面倒くさがると、脳がどんどん衰える?
思想信条にまつわるような話は、あえて人にしないでおこう、特に職場では避けようという傾向が昨今強くなっているように感じます。思想信条に限らず、自分が熱く語りたい推し活や趣味の話も、あからさまに話すと偏見を持たれる可能性がある。そういうリスクは取らず、波風の立たない人間関係が良い関係と感じる人が増えているのでしょう。 雑談が、とても難しいものになっているように感じます。
雑談をハラスメントにしない方法はある
このできごとのように、仕事の関係者とふとした会話がきっかけで自己開示し合え、人間関係が深まるようなこともあります。しかし、どこまで話したり尋ねたりして良いものかと考え過ぎて働きかけるのをやめたり、無難な「大人の会話」で切り抜けようとすることが当たり前になり過ぎていないでしょうか。 最近よく、「休日は何をしているの?」という質問すらハラスメントになるので聞けないという声を耳にします。職場の人が尋ねたならプライベートに踏み込むことになるし、仕事の間柄でなくても、うっかりめったなことを尋ねて気分を害されたり、攻撃だと受け取られたりするようなことは避けたい。自分は世間話の範疇だと思っていても、相手が「プライベートまで踏み込んで来た」「ハラスメントだ」と捉えてしまう可能性は多分にあります。 特に日本人には、「秘すれば花」を美徳とする意識があります。黙っていればどの程度の人間なのか悟られないけど、話すとレベルが知れてしまう。なので、黙っていたほうが賢い。そう判断して自己開示を避けようとするケースも少なくないでしょう。 雑談の難しさが身に沁みていると、そもそも人にどう接するのが正解なのかわからなくなっていきます。しかし、コミュニケーションを試みることなくなんとなくその場をやり過ごし、「面倒だから関わらない」を決め込むのは、認知機能の面からすると良いこととは言えません。
クイズ形式で会話の安全エリアを作る
雑談が難しく感じるのは、茫漠とした平野にいる感覚があるからでしょう。その茫漠とした平野のどこかに地雷が埋まっているかもしれないわけです。ならば、地雷に怯えるよりも、自分で安全なエリアを作ってしまいましょう。会話の「枠」のようなものを設定するのです。 休日の過ごし方を話題にしたいならダイレクトに尋ねず、「急に1週間休みがもらえて旅行するなら、国内か海外かどちら派ですか?」という質問に転換してみます。「インドア派ですか? アウトドア派ですか?」という手もあります。 道を歩いていて、犬の散歩とすれ違ったとしましょう。一緒にいた上司が犬に目をやるようなら、「ペット飼っていますか?」ではなく、「犬派ですか? 猫派ですか?」と質問してみます。 簡単な二択問題を設定するわけですね。 とりあえず二択で答えるのであれば、聞かれたほうもさほど負担にはならないでしょう。以前、一緒に道を歩いていた仕事関係者がすれ違う犬に視線を送るので、この質問を投げかけてみたら、「犬派ですけど、猫も3匹います」という答えが返ってきたことがあります。 こうして相手が自己開示してくれたら、そこからは会話がスムーズになります。こちらが黙っていても相手が大好きなペットの話を次々としてくれますし、こちらからも質問しやすくなります。 相手のことを知りたいとき、「○○って好きですか?」「□□ってどう思います?」と聞くと、聞かれたほうは自分の考えを言葉にしなければならず、踏み込まれた印象を受けてしまいます。どんな話題にも地雷が潜んでいる可能性はあり、こちらが全く想像しない相手のコンプレックスを刺激してしまうこともあります。 しかし、「どちらですか?」であればクイズっぽい印象があり、気軽に答えやすくなります。「イタリアンと中華ならどちら?」と聞かれて、「イタリアン」と答えたせいで人から下に見られるということも、逆に尊敬されるということもないでしょう。 雑談のプレッシャーを取り除く方法を一つ知っておくと、日常会話がぐんとラクになります。
大武美保子