串打ち3年、裂き8年…削りは「10年」/THE PROFESSIONAL Vol.2 岩國誠之(ウェッジ担当ツアーレップ)
“削り”に同じ形はない
選手のボーケイウェッジを見ていると、ソールのバリエーションは実に様々であることが分かる。グラインドの種類は多岐にわたる。同じ種類でも、削りが違うので同じ形のものは一本もない。そんな中で、どうやって選手の要望に寄り添っているのか。 「『溝が減ってきたので同じものをお願いします』とか、『新しいウェッジを試したいです』とか、定期的にリクエストがきます。試合会場で頼まれたり、電話をもらったり。『前よりちょっとこうして』とか、その都度ちょっと削りは違ったりします。選手によって、バウンスの角度、幅、形状なども好みは全く違います」 選手とのやり取りでは、メモを取る様子が一切ない。頭の中に削りの“レシピ”でも入っているのかと思うくらいだ。「長年やってきたこともあり、もう体で覚えているのもあります。(削り方を間違えないように)現在使用しているウェッジも借りて見本にしながら削りますが、実際は感覚で削る部分も大きい。そもそも、同じように削ったとしても全く一緒のものは作れませんからね。長年やっていますが、形を再現するのは本当に難しいですよ」としみじみ語る。ウェッジの交換頻度は早い選手で2カ月ほどだから、毎回同じ形や振り感を再現するのは確かに至難の業だろう。
「そもそも、エッジの線の輪郭をハッキリする選手と、あえてちょっとファジーにする選手もいますからね」。そう言って見せてくれたのは、菊地絵理香のウェッジ。「角があるのを嫌がるので、あえてちょっと輪郭をスムースにしています」。少し丸みを帯びたフォルムをしていた。その仕上げを“スムースコーナー”と呼ぶらしい。一方で同じタイトリスト契約選手の幡地隆寛は、輪郭がはっきりしているのを好むのだとか。「幡地プロは幅広いソールからけっこう削って落としていくんですけど、ヒールはがっつり残したいタイプ。彼はちょっとヒールを当てていきたいので、ヒールを落とすとスポンって抜けちゃうんです」と、こちらはヒール側が角ばっている。 そんな話をしていると、タイトリスト契約の川村昌弘がツアーバンに顔を出した。岩國氏との付き合いは、かれこれ10年以上になる。「あれもこれも作ってではなく、『こういうのを試したいんだけど、どうやったらできます?』と、いつも課題をくれる選手。レップ冥利に尽きるというか、一番やっかいな選手ですよ(笑)」。信頼関係があるからこそ、こんな冗談も言えるのだろう。