串打ち3年、裂き8年…削りは「10年」/THE PROFESSIONAL Vol.2 岩國誠之(ウェッジ担当ツアーレップ)
6種の“粗さ”を使い分け
「一番奥が深い」というウェッジの研磨作業。難しさの真髄はどこにあるのか。「マニュアルがあってないようなもの。ボーケイさんにはボーケイさんのやり方、アーロン(米国のウェッジ担当、アーロン・ディル氏)にもアーロンのやり方がある。ゴルフと一緒で『こう打ったら、こう飛ぶ』というのがあって、そこを自分で見つけなければいけないんです。今はだいぶその感覚が分かってきましたが、未だに『こう当てたら、こう削れるんだ』という発見もあって、日々勉強中です」。削りが足りなければバウンスが邪魔して突っかかり、削り過ぎるとバウンスが使えずに抜けてしまう。まさにプロが必要とする“かゆいところに手が届く”削りを具現化する難しさは形容しがたいものがある。 削りのベースでもある「ヤスリ」について聞いてみた。グラインダーに取り付けるヤスリのベルトは全部で3種類。「一番削れるのが青いベルト。まずはそれで新しいヘッドをガーッと削って、ある程度の形を整えていきます。次に中間の粗さのベルトで、形をキレイにしていく。最後に粗すぎないベルトで細かく整えて完成です」。3種類と言ったが、岩國氏の中ではさらにそれぞれが2つに分かれ、計6種の粗さで削っているという。「ベルトの中にも目の粗いところとそうじゃないところがある」と、ベルト中央部の黒ずんだ箇所を見せてくれた。その部分を触ってみると、確かにザラザラ感が弱い。練習場の人工マットの打ち込んで削れた部分のようだ。「一番削れるベルトの黒い部分を“生きのイイ黒”と呼んでいるんですが(笑)、そこで研磨をすると、ちょうどいい目の細かさに仕上がる。逆に一番削れないベルトの黒い部分でやると、ピカピカ感が出る。その“削れない黒”は、本当に細かいところを調整したり、削り過ぎないようにする時に使っています」
こんな極上の削りを味わえるプロは幸せだなと思うが、裏を返せば、数ミリ単位の削りの差が求められるということ。「谷口(徹)さんとのやり取りはもう長いですが、ロブを打つ時は大体この辺だろうなというのをいつもイメージして削っています。ここら辺を落としたら開きやすいだろうなって。それでも開いた時に『ヒールが当たる』と言われることも多く、新しいウェッジを持っていく時は、いつも一番当たりにくいものを用意して持っていきます」 ツアーレップはアーティストではない。満足するものができ上がっても、選手が納得しなければ意味がない。削りを求める選手がいて、さらにその先には選手が対峙するやっかいな芝や砂がある。選手が最高のパフォーマンスを発揮できる削りを求められるからこそ、難しく、奥が深いのだ。