死者数最大32万人「南海トラフ巨大地震」実際に起こりうる“震災現場での現実”
主人公たちの行動を追体験してもらう、それこそがこの作品の意義
――bikiさんは、1989年(平成元年)生まれ。記憶にある大きな地震・災害は、やはり、阪神・淡路大震災でしょうか。 「阪神・淡路大震災は薄っすらと記憶がある程度で、衝撃を受けたのは東日本大震災です。当時、父が航空自衛隊に所属する自衛官で、東日本大震災の際は人命救助やヘリコプターでの輸送業務に携わっていたため、他人事ではありませんでした」 ――作品を読むと、膨大な量の資料や書物に目を通し、丹念に取材されたことが伺えます。取材を通じて改めて知ったこと、驚いたことがあれば教えてください。 「繰り返しになりますが、南海トラフ巨大地震の規模が、想像をはるかに超えてしまうということです。東日本大震災の10倍以上もの人的被害、経済被害と言われてもピンときませんが、予想される死者数は、最大32万人にも上るといわれています。 この数値は、地震や津波による直接的な被害だけでなく、その後の生活環境の悪化や医療体制の崩壊による間接的な被害も含んだものとはいえ、東日本大震災の死者数が約2万人ですから、その巨大さに改めて驚かされました。取材で東北地方を訪れた際、震災の資料館で見た写真や映像をはるかに超える巨大地震が来ることを想像するだけで震えました」 ――阪神・淡路大震災や東日本大震災を超える“大きな揺れ”が広範囲にわたって発生すると考えると、恐ろしいです。 「作品の舞台になっている愛知県や大阪府など近隣の都道府県では、地震や津波の直接的な影響を大きく受ける可能性があり、特に津波による被害が大きいと予想されています。名古屋市などの大都市では、都市機能の大幅な低下が予想されていますが、津波の影響も考慮すると、復旧までにかなりの時間を要する可能性が高いです。 さらには、連動して富士山の噴火の可能性も指摘されています。その場合、溶岩流や火砕流、火山灰の影響により、人的被害はもちろんライフラインや産業への被害は深刻になります。加えて、災害救助を担う自衛隊の基地や駐屯地も被災し、機能不全に陥いるでしょうから、救援・救助もままならない状況になることが予想されます」 ――本作でも、名古屋近郊だけで守山、小牧、春日井、豊川、岐阜…どの基地や駐屯地も深刻な状況にあると書かれています。 「東日本大震災の資料館を訪れてゾッとしたのは、津波後の町は本当に歩けない…ということでした。うず高く積み上がったがれきの山が続いているため、ほんの数百メートル進むにも何時間もかかってしまう。能登半島地震の際も、救援・救助に向かうのが困難な状況であることが分かりましたし、広範囲にわたって基地や駐屯地が被災する南海トラフ巨大地震の後は、助けたくても助けに行けない、どうにもならない状況が予想されます」 ――今後はそうした困難な状況のもと、主人公たちがサバイブしていくわけですね。 「第3巻以降は、ショッピングモールなどに避難して生き残るための物資を調達しますが、この展開について取材した時も驚きがありました。 ショッピングモールあるいはスーパー、コンビニの多くは指定避難所になっていません。それでも避難者が押し寄せてくる中、各店舗が自己判断で受け入れ、食料や飲料水などを無料で支給し、寝床を確保している。自分たちも被災者でありながら、これらの行為が善意で行われていたことを知って感動しました」 ――その一方で、窃盗などの犯罪もあったと聞きます。 「完全な犯罪はもちろん罰せられるべきですが、生き延びるために仕方なく…となると、どうなのか? 取材をしながら考えさせられましたし、主人公たちも今後、さまざまな決断に迫られ、葛藤すると思います。 また、命をはじめとする3人の他にも新たなキャラクターを登場させることで、災害下のリアルをより多面的に描いていきます」 ――インタビューでは語り切れなかった地震・災害に関する知識や情報、主人公・命らの今後は、連載中の漫画「南海トラフ巨大地震」を読んでいただくとして…。最後に、読者にメッセージをお願いします。 「主人公たちの行動を追体験してもらう、それこそがこの作品の意義だと思っています。とりわけ教育書や関連書になかなか食指が動かないという若い世代の皆さんには、漫画を通して南海トラフ巨大地震に興味を持っていただきたい。万が一の時、この作品で読んだ情報が役に立つ、あるいは主人公たちの言動が生きる指針の一つになってもらえたら原作者としてうれしく思います」 ――2025年3月発売予定の第3巻はどんな内容になりそうですか? 「朝霞くん(元陸上自衛隊員でプラントエンジニア)のケガが状況をより一層シビアにさせる…というのが第3巻の始まりですが、今後は時間の経過とともに災害のフェーズが変わっていきますので、避難所でのトラブルや行方不明者の問題、医療現場の混乱など、長期的に描いていく予定です。 主人公・命の成長の兆しも見えます。彼らと一緒に南海トラフ巨大地震による災害下を追体験してください」 【biki プロフィール】 画原作者。平成元年生まれ。慶應義塾大学大学院 理工学研究科修了。現在は漫画やYouTubeアニメーションの原作をはじめ、キャラクタービジネスやIP開発のコンサルティングなども行う。手掛けた作品は、週刊少年マガジン『ワールドエンドクルセイダーズ』、別冊少年マガジン『いぐのべる』、YouTubeアニメ『全力回避フラグちゃん!』他。 (取材・文/橋本達典)
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