ハーバード大が注目する地中海式ライフスタイルとは ?/ 世界中の学会や大学を巡る、根来秀行教授の最先端医学リポート
会場となった高級リゾートホテルのグレコテルのエントランス。会期中は全館貸切。
セミナールームもブルーの照明でとってもムーディー。椅子もウッディでリゾート感が漂う。 ハーバードの主要な教授陣が多数参加し、アメリカ大使や政府関係者、NIH(米国国立衛生研究所)のコアメンバーも出席していたそうで、米国政府も強い関心を寄せていることが伺える。 「地中海健康会議は、ハーバード大学医学部が近年目指している『ビヘイビア・ヘルス』を具現化して研究、検証する一環で立ち上がったプロジェクトです。 ビヘイビア・ヘルスとは、行動や生活習慣を変えることで病気にならない、より健康な体を自ら作っていくという考え方。保険の問題が深刻なアメリカでは、これまでの薬に依存する医療を脱却して、ビヘイビア・ヘルスにシフトすることが医療費削減にもつながるというスタンスに移行しつつあります。 健康の最先端の研究と実践を突き合わせて、どういう方向性にもっていくかを模索する中で、ハーバードが注目しているのが、地中海食や地中海式ライフスタイルなのです」
プレスリリースの写真でも、皆さん楽しそうだ。 地中海食は地中海沿岸地域の伝統料理。EPAやDHAなどオメガ3系脂肪酸が豊富な魚や、ファイトケミカルやポリフェノールなど抗酸化物質を豊富に含む野菜や果物をたっぷりとり、オリーブオイル、ナッツ、豆類、全粒粉などを多く使用しているのが特徴だ。2010年に世界無形文化遺産に登録されました。 《地中海食の特徴》 ・野菜や果物をふんだんに使う ・オリーブオイルを使う ・タンパク質は魚介類を中心にとる ・肉類は鶏肉を中心に、牛肉や豚肉は控えめに ・低脂肪のチーズやヨーグルトをとる ・豆類やナッツ類、ハーブやスパイスなども取り入れる
地中海健康会議で供された地中海食の一部。ハーブやトマト、豆類、チーズ、プランツミート、全粒粉パンなどを使ったヘルシーで美しいディッシュ。 日本でも地中海式ダイエットは何度かブームがあったが、百寿者の多い地中海地域の食事や生活習慣について、ハーバード大学ではかねてより研究を重ねていて、その効果を地道に実証してきたという。 「地中海食が肥満、糖尿病、心血管疾患、慢性腎臓病などの生活習慣病のリスクを低下させることは、多くの研究で確認され続けています。ハーバード大学の最新研究では、地中海式ダイエットがテロメアの長さに影響し、長寿を促すという報告や、近年増加している認知症関連死亡のリスクを下げたことも報告されています」 中でも地中海食で頻繁に使われるオリーブオイルの抗酸化・抗炎症作用については、改めて注目が集まっている。 「今回の会議でもオリーブオイルに関する多数の研究が報告されましたが、さまざまな植物性オイルと比較しても、その有効性は突出していました。 オリーブオイルはその成分の7~8割が血中の中性脂肪やコレステロールを減らす作用があるオレイン酸です。抗酸化作用があるポリフェノールも多く、『悪玉』LDLコレステロールを抑えるなど、動脈硬化の予防も期待できます。 ハーバード大学が9万人以上を対象に28年間にわたりオリーブオイルの摂取量を追跡した研究では、小さじ半分ほどのオリーブオイルを毎日摂取することで、心臓病発症のリスクが5分の1も軽減されることがわかっています。 私たちの研究室では、オリーブオイルの成分が免疫細胞にどういうメカニズムを介して抗炎症作用を及ぼすのか解明しつつあります。 抗酸化・抗炎症作用の高いオリーブオイルを調理用オイルの中心にするだけでも健康効果が期待できると思います。普段の食事に地中海食と和食を上手に組み合わせていけば、自然に栄養バランスのいい食事になるでしょう」