「名古屋で生まれ、名古屋で育ち…」名スピーチでお別れした中日の“泣き虫タジ魔神”
◆ 「これまで出会い、関わっていただいたすべての方に感謝しています」 泣きっぱなしの8分間だった。中日・田島慎二が10月5日のDeNA戦(バンテリン)で引退登板し、試合後には同僚へのメッセージを織り交ぜた渾身(こんしん)のメッセージにスタンドは握手で包まれた。 マウンドは7回一死。立浪監督からボールを受け取った。「泣くの早いやろ、大丈夫か?」。うなずくので精いっぱいだった。代打・京田陽太のコールで元チームメートとの勝負。お互い泣いていた。 「僕は自分のことで精いっぱいで京田を見る余裕はありませんでした。今年ずっと交わす投球しかできなくて、最後ぐらい力で押すピッチングをしたかったです」 真っすぐ2球で追い込んで、決め球のスプリットで空振り三振を奪い役目を終えた。 ゲーム前、京田と会話したのもいい思い出。「試合出るの?」、「出ないと思います」。京田がDeNA首脳陣に代打を願い出ていたこを試合後に知った。 試合後になり、暗い場内でライトが当たる。スピーチが始まった。 「幸せです。感謝しかありません。名古屋で生まれ、名古屋で育ち、野球を知り、野球を通じてたくさんの方々に出会い、僕は成長できたと思います。本当にありがとうございます。これまで出会い、関わっていただいたすべての方に感謝しています。ドラゴンズで出会った先輩たちはとてもかっこよく、男気あふれる頼れる人たちばかりであこがれていました。少しでも先輩たちのようになりたい、近づきたい、そんな思いでやってきました。今日、この日を迎え、周りからどのように見えているか分かりませんが、先輩たちに少しでも近づけるようにやり切れたと思います。このような花道を飾っていただいたことに感謝しかありません」 ここから、5選手の名前を挙げてメッセージを送った。 最初は自主トレ仲間の小笠原慎之介へーー「先発した慎之介、お前は気持ちが熱いやつで今日のためにすごい準備してくれたと思います。下がってきた時のお前の気持ち、やっぱりいいものがあって、1年目トイレで泣いていたのを思い出すと今では考えられないです。来年、慎之介がどこでやっているか分かりませんが、どこにいっても応援したいと思います。慎之介頑張ってくれ」 次は同じ2012年ドラフト同期の高橋周平ーー「周平、あいつはユニホーム着て並んでないですけど、同期入団でドラフト1位。やっぱり最後まで残ったのは周平で、性格は最初から最後までわがままで、でも本当にかわいいやつで。練習しだしたら一番するやつで、僕は本当にこの先の周平にまだまだ期待しています。1年でも長くいい結果を残せるように頑張ってくれ」 3人目は弟のように可愛がった岡田俊哉ーー「俊哉、お前はずっとくっついてきて本当にかわいいやつで。沖縄での大きなけが、(昨年2月の右大腿骨骨折から)ここまで回復しているのはすごいと思う。来年2桁になってここで投げているのを期待しています」 最後は兄弟のように同じ時間をともにした祖父江大輔、大野雄大ーー「そぶさん、大野さん。一番さみしいでしょ。おれもきつい。もっと一緒にやりたかった。本当に2人がいたからおれはここまでできた。次はどの立場になるか、どこにいるか分からないけど、一生応援しているし、一生兄弟、家族、そう思っていす。これからもよろしくお願いします」 今季の防御率は108.00。6月27日の阪神戦(甲子園)で初登板したが、一死も奪えず4失点で降板している。引退登板で一死を奪い防御率が付いた。 「煩悩の数と同じ108ですか。何か、面白い数字になりましたね」。泣き果てたスピーチ後、笑顔で第2の人生の第1歩は幕開けした。 文=川本光憲(中日スポーツ.ドラゴンズ担当)
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