「日本は年齢に対する偏見が強すぎる」46歳で司法試験合格を目指し7年の死闘の末に得た教訓
<ノンフィクション作家で、開高健ノンフィクション賞受賞者の平井美帆氏。このたび、7年に及ぶ「死闘」の末、司法試験に合格した。なぜ40代半ばで司法試験合格を目指したのか。最難関の試験にどうやって合格できたのか。全てを赤裸々に明かすルポの最終回――。> 【マンガ】夫の死後、5200万円を相続した家族が青ざめた…税務署からの突然の“お
死闘の5日間
2024(令和6年)7月、ついに3回目の挑戦がやってきた。 1日目は前年と同じく、どこかそわそわしてしまい、調子が乗らなかった。問題の難易度と量が、予備校の全国模試などとは比べものにならない。脳みそに急性ストレスがかかりすぎて、心理的に「はやく終わらせたい」「逃げたい」という甘さが生じがちになってしまった。 〈このままでは今年も落ちてしまう。〉 危機感を抱いた私は、2日目は自分の脳みそに命じた。指示ではなくて、もう命令なのである。人間、苦しいことからは逃れようとする本能がどこかで生じてしまうから。 〈逃げるな、闘え。〉 何度も何度も――、〈逃げるな、闘え!〉〈最後の0.1秒まで、問題文と最大限の力で闘う!〉〈絶対に逃げない!〉 あらゆる敵は消え失せ、私は己の限界と闘っていた
運命の時―合格発表までの4カ月間
司法試験の合格発表は、短答は約3週間後に結果がわかるが、最終的な結果がわかるのは試験後から約4カ月後になる。この間は何をしても心から楽しめない。短答を通過すると、最終合格している可能性があるから、過酷な受験勉強にも打ち込めない。 夏が過ぎ、秋に入ると、合格発表日が近づいてくる。あと1カ月、2週間……。 〈大丈夫、落ちても死なない。明日があるだけ。〉 自分にそう言い聞かせるが、その時を思うと、呼吸が乱れる。荒くなる。53歳の女でこんな体験ができるなんてラッキーと思い込もうとしても、無理だった。
02002
いよいよ1週間を切ると、あと数点で落ちる夢で目覚め、食欲も失せ、毎日死にたくなるような気分になった。落ちたショックをやわらげようとする防衛本能からか、落ちたあとのこともあれこれ考えてしまう。 11月6日、午後3時過ぎ、ふらふらとした足取りで自宅を出た。大きな息をくり返しながら、地下鉄に乗り、なんとか霞が関の法務省にたどり着いた。合格発表掲示板を見ようと、折り返しの長蛇の列ができている。 しばらくすると、受験生たちの運命を握った列は、生き物のようにぐるぐると動き出した。ついにその時は来た。 もう何も頭になかった。だれかの体の横側に02007、02006、02005、02003が見えた。ひとつ上に……、 02002。 〈あった!!〉 胸が一杯になると同時に涙が溢れ出て、iPadで動画撮影していた手は止まった。 ついに、ついに、重い扉は開いたのだ。私は泣きながら、受験生たちの間をくぐり抜けた。