桶川ストーカー殺人事件25年「もういいよ、という詩織の声が聞こえてこない」 がん患った父が続けた講演120回、娘が愛した「ひまわり」に込めた願いは―
警察にストーカー被害を相談する際も、友人や家族、職場の同僚などが付き添うことで、被害者が孤立しない環境を作る必要があると語る。また地域の住民や学校の先生、職場の上司などに遠慮なく頼り、全体で「安全の壁」を築くことが、被害防止の鍵だと強調している。 ▽警察批判だけでなく、激励も 京都府警からの依頼で、警察での講演が初めて実現したのは2017年のこと。その後は各地の警察学校などで、桶川事件を知らない世代の生徒たちにも向き合ってきた。講演中は、詩織さんがプレゼントしてくれたネクタイピンを欠かさず身につけている。「詩織とともに伝えたい」との思いからだ。 講演では、事件当時の捜査を厳しく批判する一方、若い警察官たちに「警察なくしてストーカー犯罪の撲滅は不可能」と激励のメッセージを伝えることも忘れない。講演を聴いた生徒からは「どんなに小さな悩みでも、寄り添える警察官になりたい」といった声が寄せられたという。
事件を機に、ストーカー被害を防ぐための法整備が繰り返されてきた。事件翌年の2000年には、つきまといや待ち伏せ行為を罰するストーカー規制法が成立。その後も法改正がされ、2021年には衛星利用測位システム(GPS)を利用した位置情報の追跡や見張り行為も規制対象となった。 ある埼玉県警幹部は事件当時、男女関係に関する相談は「警察が介入しにくい時代だった」と振り返り、「事件は確実に警察改革の要因になった」とも語る。 ただストーカー被害の相談件数は減少しておらず、課題は山積している。こうした状況について、憲一さんは「ストーカー行為をためらわせる罰則の強化が必要だ」と話し、さらなる法整備の必要性を訴えている。 ▽「もういいよ」の声が聞こえるまで 事件では、報道機関の問題点も浮き彫りになった。 遺族は事件後、多数の報道陣に自宅などに押しかけられるメディアスクラムに苦しんだ。記者たちは早朝から深夜まで居座り、写真を撮り続け、おびただしい質問を浴びせた。詩織さんの名誉を傷つけるような虚偽の内容の報道も流されたという。