【習近平政権との貿易戦争も再戦へ】軍や外交関係者を「イエスマン」で固めたトランプ政権の“危ういディール”はすでに始まっている 石破首相がすべきことは何か
ドナルド・トランプ氏の大統領返り咲きにより、世界情勢は不確実性を増している。難しい舵取りを迫られる石破茂・首相だが、カギとなるのは“超一強体制”を築き上げた中国・習近平政権との関係性だという──新刊『あぶない中国共産党』を共著で発表したばかりの2人、中国に関する著書が多数ある社会学者の橋爪大三郎氏と元朝日新聞中国特派員のジャーナリスト・峯村健司氏(キヤノングローバル戦略研究所主任研究員)が激論を交わした。(文中一部敬称略)【全3回の第1回】 【写真】習近平氏は前列で笑顔。石破茂首相は後列 G20サミット2日目の集合写真の撮影に応じる各国首脳
トランプの“危ういディール”
橋爪:トランプ1期目(2017年~)と2期目(2025年~)の違いは、今のほうが“戦争だらけ”ということです。ロシア・ウクライナ戦争もイスラエル・パレスチナ戦争も、アメリカ絡みの戦争です。 峯村:1期目からトランプ氏はしばしば「戦争を始めるのは簡単だが、終わらせるのは難しい」と言っていました。 彼の“戦争嫌い”がロシア大統領・プーチンへの譲歩となることが懸念されますが、就任初日に「ウクライナ停戦」を宣言する可能性はあると思います。トランプ氏は9月からウクライナのゼレンスキー大統領との接触を始めるなど、準備を相当進めています。1期目に続き、“再戦”となる習近平政権との貿易戦争などへの対峙の仕方も考えているでしょう。 橋爪:これまで政権入りが報じられた軍や外交関係者はイエスマンの取り巻きばかりです。となると、トランプの“危ういディール”を止めるのは国外の、NATO首脳と日本の首相である石破さんの役割になる。つまり、大変荷が重い。
アジア版NATO構想などの理屈臭い話は響かない
峯村:正直、石破首相にはあまり期待できません。大統領選後から、NATOのルッテ事務総長やカナダのトルドー首相らがトランプ氏の自宅があるパームビーチでみっちり会談したのに対し、石破首相は訪米を断わられ、すごすごと引き下がりました。 仮に石破首相がトランプ氏と会ったとしても、アジア版NATO構想などの理屈臭い話は響かないでしょう。それよりも、アメリカにとってどう利益になるのか、具体的な絵を描いて端的に説明をして、トランプ氏を納得させる必要があります。 橋爪:石破さんがまずすべきなのは、トランプが吹っかけそうな要求を先回りして日本案をまとめ、国会で野党と協議して合意を形成することです。下手に過半数があると野党と協議できないが、今はむしろチャンス。そのイニシアチブは石破さんにしか取れません。いくつかでもまとまれば、それを見た外国の首脳が「石破もやるな」と彼の話を聞くようになる。 峯村:まさに、結果を出していくのが先決です。 トランプ氏はメキシコのシェインバウム大統領と移民や関税問題で話をするなど、すでにディール外交が始まっています。1期目では安倍晋三・元首相が外務省の反対を押し切ってトランプタワーに会いに行ったことが奏功しました。石破首相もなりふり構わずにトランプ氏との“ゲーム”に入る努力をしなければ、日米関係が後退するのではとの危機感を持っています。 (第2回に続く) 【プロフィール】 橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)/1948年、神奈川県生まれ。社会学者。大学院大学至善館特命教授。著書に『おどろきの中国』(共著、講談社現代新書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)、『中国共産党帝国とウイグル』『一神教と戦争』(ともに共著、集英社新書)、『隣りのチャイナ』(夏目書房)、『火を吹く朝鮮半島』(SB新書)など。 峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年、長野県生まれ。ジャーナリスト。キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。朝日新聞で北京特派員を6年間務め、「胡錦濤完全引退」をスクープ。著書に『十三億分の一の男』(小学館)、『台湾有事と日本の危機』(PHP新書)など。 ※週刊ポスト2024年12月20日号
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