発見翌日に死んだ「メガマウス」 謎多い生物とどう付き合うか?
行動追跡調査で新たな生態が明らかに?
今回のように定置網に入った場合は、千葉のケースのように生きている状態での観察を試み、できるだけ早く放すことも検討することが重要かもしれません。不幸にも死んでしまったら研究材料として詳しく調べる。これを一つひとつ続けて行くことがとても大切です。幸運にも三重のケースのようにメガマウスザメを元気な状態で海へ返せる場合、調査のために他にできることはないのでしょうか?
バイオロギングという技術があります。発信機を生物に取り付けて追跡し、居場所や行動を明らかにする技術です。メガマウスザメが昼と夜、浅い場所と深い場所を往復していることが明らかになったのも、1990年にカリフォルニアで発見されたメガマウスザメに発信機をつけて海に返したからです。たった2日間とはいえ、それまで知られていなかったメガマウスザメの行動を追跡できたのです。 その後、魚に取り付けるタグは小型化し、自動的に外れて水面まで浮き上がるように改良されました。データも現在ならば数か月分をためることができますし、取得したデータは海面から人工衛星を経由して研究者が取得できるようになっています。近年のこうした技術の進歩は、長距離を移動する海の生物、例えばウミガメやアジサシという鳥の行動や生態を明らかにするのに大いに役立っています。進歩したバイオロギングの技術を使えば、もしかしたらメガマウスザメの生態を少しずつ明らかにできるかもしれません。間違って捕獲してしまうことを防ぐためにも、バイオロギング技術による行動追跡にチャレンジしてみる価値はありそうです。 私も含め、人間にはよく分からないものに魅かれ、もっともっと知りたくなってしまう性があるようです。でも、知りたいからといってメガマウスザメの絶滅につながるようなことをしてしまっては、元も子もありません。研究技術の進歩によってメガマウスザメにストレスを掛けずに研究できるようになり、今よりもたくさんのことが分かるまでは、三重から太平洋へ帰った若いメガマウスザメが、どこかで大きな口を開けてプランクトンを丸呑みにしながら泳いでいる姿を想像して楽しむことにしましょう。 ◎日本科学未来館 科学コミュニケーター 入川暁之(いりかわ・あきゆき) 1971年、東京生まれ。専門はサンゴ礁生態学。潜水士をしながら大学でサンゴの病気を研究し、2015年より現職。趣味はスキューバダイビングと映画鑑賞