発見翌日に死んだ「メガマウス」 謎多い生物とどう付き合うか?
酸欠?光や水温?死因は分からず
千葉の個体は、残念ながら翌日には死んでしまいました。死因は分かっていません。メガマウスザメの属しているネズミザメ科のサメには、体内に十分な酸素を取り込むために泳ぎ続ける種類もいますが、メガマウスザメはゆっくり泳ぐサメだと考えられています。弱ってしまった原因が酸欠だったかどうかは断定できません。 メガマウスザメが動物プランクトンの動きに合わせて浅い場所と深い場所を往復することを考えると、光や水温の影響が気になります。もしもメガマウスザメが昼に浅い場所にとどまれば、いつもより長い時間、強い光のあたる場所、そして水温の高い場所に居続けることになります。そのことがメガマウスザメにとってストレスになるのか、ならないのかについても、まだ明らかになっていません。
日本はメガマウスザメ研究に向いている?
謎だらけのメガマウスザメですが、人類がメガマウスザメのことをもっとよく知りたいと思うなら、日本は大きく貢献できるかもしれません。 なぜなら、これまでに発見された120個体のうち三分の一は黒潮域であるフィリピン、台湾、日本で見つかっていて、そのうち20個体近くが日本沿岸での発見だからです。 さらに、日本には漁協という制度があります。漁業者が発見した海洋生物の情報は漁協を通して現場からマスメディアや研究者に素早く知らされます。「これは◯◯です」という専門家のフィードバックにより、他の場所での発見と連絡も促されます。ダイオウイカの情報が集まるようになったり、エチゼンクラゲの大発生状況を把握できたりと、海の現場と研究者のやりとりが盛んなおかげで科学的知見が蓄積しやすいことは日本の大きな強みです。
メガマウス放流の判断をした三重の事例
今回の出来事は、よく知らない相手と人間がどうやってつきあうのか、そのことを考える機会になりました。 千葉で発見されたメガマウスザメは残念ながら死んでしまいましたが、海中にサメをとどめ、すぐに研究者へ連絡したことで、成熟した大型のメガマウスザメを生きた状態で研究者が観察できました(もちろん撮影も)。遺骸は大学で調べられることになり、血液検査の結果からメガマウスザメの繁殖に関する知見が得られる可能性があります。 三重県で関係者が下した放流という判断にも大きな意味があります。メガマウスザメのように大型の生物は、いったん数が減ってしまうとなかなか個体数が回復しないという特徴があります。特に産まれる子供の数が少ない動物の場合はより深刻です。仮にメガマウスザメの飼育が可能でも、生態や現在の個体数が分からない現状では、飼育展示によって商品価値に注目が集まり、メガマウスザメの商業取引(そしてそれによる個体数の減少)を招いてしまう恐れがあります。