都知事選で15万票以上を獲得し5位になった注目のAIエンジニア・安野貴博が語る「デジタル民主主義」の真実
――最後に10年後の日本ってどうなっていると思いますか? 安野 それは日本がAI社会に対して、いち早く適応できるかどうかによって違うと思います。よく「AIに仕事が奪われる」と心配している人がいますが、日本全体で考えると労働人口が足りなくなる懸念のほうが大きいんです。 すると、今のレベルのサービスを企業がそのまま維持することが無理になってきます。これはAIに関係なく、ほぼ確定した未来です。 では、その不足した労働力をどうするかというと「移民を受け入れる」か「AIを活用する」かの2択くらいしかないんです。だから、いち早くAIに対応したほうがいい。 実は日本は欧米に比べてAIに対して前向きな人がすごく多いんです。技術ではアメリカや中国に負けていますが、AIを使いこなす社会をつくるという意味では、先行できる可能性があります。 今回「都知事選でAIをフル活用する」とアメリカにいるグーグルのエンジニアの友人に言ったら、最初ジョークだと思われました。アメリカでは「そんなことが社会的に許されるはずないだろう」というくらいの雰囲気なんです。 ――それはなぜなんですか? 安野 AIと聞くと日本人はドラえもんを想像するけれども欧米人はターミネーターを思い出すということ。それから宗教的な問題もあると思います。キリスト教は人間中心主義の価値観があるので葛藤が起きてしまう。やはり、仏教的な共生思想のほうが抵抗感がないんだと思います。 ――だから、日本のほうがAIが普及しやすい? 安野 そうだと思います。もし、AIが普及しないで変化がないままだと、予想されたように人口が減り、サービスのレベルや治安が悪くなって、経済が落ち込み、日本は財政的に破綻するでしょう。 そうならないために、私はまず、今回の都知事選で「未来の選挙の当たり前」を提案したかったんです。 * * * 安野貴博氏が都知事選で示した価値観や問題点は、今後、どう評価されていくのだろうか......。 ●安野貴博(あんの・たかひろ) 1990年生まれ、東京都出身。AIエンジニア、SF作家、起業家。東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループを経て、AIスタートアップ企業を2社創業。デジタル庁デジタル法制ワーキンググループ構成員。2021年に『サーキット・スイッチャー』(ハヤカワ文庫)で「第9回ハヤカワSFコンテスト」優秀賞を受賞し、小説家デビュー。7月18日に最新作『松岡まどか、起業します―AIスタートアップ戦記』(早川書房)が発売された。 取材・文/村上隆保 撮影/村上庄吾