都知事選で15万票以上を獲得し5位になった注目のAIエンジニア・安野貴博が語る「デジタル民主主義」の真実
――そのために何をしたんですか? 安野 大きく3つの仕組みを作りました。「みんなの意見を聞く仕組み」「聞いた意見を磨く仕組み」「磨いた意見を伝える仕組み」です。 聞く仕組みは「X」や「ユーチューブ」「ヤフーニュース」などネット上にあるさまざまなコメントや投稿をAIに読み込ませて、どういう意見がどれくらいあるのかを可視化する仕組みです。 磨く仕組みは、可視化した意見から、例えば、「私のマニフェストのこの部分はこうしたほうがいい」と議論して提案できる場を作りました。ただ、議論の場を作るだけだと荒れることがあるので、誹謗中傷やヘイトスピーチが書き込まれるとAIがその投稿を拒否します。 また、同じ議論が何度も繰り返されることがあるので「その話はこっちのスレッドでやってるよ」などとAIが教えてくれる仕組みを作りました。 ――AIが管理人みたいなことをやっているわけですね。 安野 そうですね。この仕組みを作ることで、かなり建設的な議論空間ができました。実際に私のマニフェストも選挙期間中に80回くらいは更新したんです。 ――へー。 安野 今の政治家の方は、一度マニフェストを出すと、それが完璧なものであるという前提で話さなくてはいけないゲームをしていると思うんです。 そうすると異論が来たときに「これは間違っていない。私は正しい」と主張しなければいけなくなる。でも、マニフェストを途中で改善できるならば、「どこが悪かったか」を聞いて良いものにできるわけです。 〝民主主義〟ということを考えると、人の意見を聞きながら、自分の意見に磨きをかけるほうが望ましいと思います。 ――でも、それだと安野さんが思っていたのと違う方向に行くこともありますよね? 安野 変更提案を受け入れるべきかどうかという最終的な意思決定は私が行なっているので、私が意図しない方向に行くことはないです。 ――なるほど。 安野 そして、マニフェストをアップデートしていると、それを伝えるのも難しくなります。ですから「磨いた意見を伝える仕組み」も必要になります。そのために「AIあんの」を作りました。 AIあんのが更新されたマニフェストをどんどん取り込んでいって、皆さんの聞きたいことについて最新の状態で答えられるようにしています。 また「AIあんのにこんな質問が多かったよ」などというデータも取ってあるので、もう一度「みんなの意見を聞く仕組み」に戻ることになります。 ――ぐるぐる回っているわけですね。 安野 そうなんです。「聞く・磨く・伝える」のサイクルをぐるぐる回し続けることが「みんなで議論すること」だと私は思っていますので。