小学生の暴力行為、10年前の6.4倍にまで増えたのはなぜ? 「暴力的な子が増えたと考えるのは危険」と専門家
――「良いこと」と考える理由は? 1000人当たりの暴力行為の発生件数をみると、都道府県で乖離が大きいですね。小学校でいうと、例えば最大の宮城県では31.8件、東京都では3.3件、神奈川県では19.7件、最小は愛媛県で0.0件(年間発生件数は3件のみ)です。私はいじめについての講演会でよく、都道府県別に1000人当たりのいじめの件数を算出して、来場者の方々に「皆さんだったらどの自治体に移り住みたいですか」と聞きます。ほとんどの方が件数の少ない自治体を選びます。他方で1割ぐらいの方は、件数の多い自治体を選びます。「教師が見つけてくれる、対応してくれるということだから」と。その通りなのです。教師がトラブルを見つけ対応してこそ、数値が増える。数字が出てきていない自治体のほうが実は問題なのです。警察が動けば動くほど、万引きなどの件数が増えるのと同じ理屈です。 ■暴力行為の件数と、いじめの関係は ――いじめと暴力行為は関連がありますか。 いじめについて、文科省はとにかく見つけて報告することを求めています。小学校のいじめの認知件数は、10年前の2013年度は11万8748件、2023年度は58万8930件で約5倍と急増しています。さきほど述べたとおり暴力行為の件数は2013年度比で6.4倍ですから、いじめと暴力の件数の増加傾向は類似しています。小学校を中心に、子どものさまざまなトラブルを、「子どものことだから」と放置するのではなく、学校のなかで1つの事例として共有し対応していく流れが強まっています。 深刻な事案については、たとえばいじめの「重大事態」とよばれる事例は、中学校で多く確認されています。軽微な事案の可視化で認知件数は急増しますが、それに一喜一憂せずに、深刻な事案への対応を着々と進めていくべきでしょう。 ――小学校で小さなトラブルも見つけて対応することで、将来的ないじめや暴力の深刻な事案が減っていく可能性は考えられますか。 そのように期待します。これだけ、子どもの人権や安全を大事にしようと言っている時代です。世の中は良い方向に回ってきていると思います。一方で、大人の世界でもいじめはあります。それなのに、子どもの世界だけ、いじめが起きない、いじめをゼロにするということは不可能でしょう。いじめも暴力も起きたときにどこまで素早く察知して深刻化しないようにするか、ということが大人の仕事。だから、認知件数が増えることはとても良いことです。