“寒くなれば有利”は非現実的? 「富士の課題を持ち越さないようにしたい」【スーパーフォーミュラ王座への勝算:野尻智紀陣営】
2024年も鈴鹿サーキットでの2連戦でシリーズチャンピオンが決まる全日本スーパーフォーミュラ選手権。第7戦富士を終えて、坪井翔(VANTELIN TEAM TOM’S)が86.5ポイントでランキング首位に浮上し、それを14.5ポイント差で牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)、16.5ポイント差で野尻智紀(TEAM MUGEN)が追いかける状況となっている。 【写真】小林可夢偉(Kids com Team KCMG)とバトルを演じる野尻智紀(TEAM MUGEN) ポイント差だけをみると坪井が一歩リードのように見えるが、果たして牧野や野尻の逆転があるのか? 各号車の担当エンジニアに、“鈴鹿決戦”に向けた見通しを取材した。 ■3月の開幕戦との違い 3度目のシリーズチャンピオンを目指して、ランキング首位で10月の富士2連戦に乗り込んだ野尻。第6戦・第7戦ともに予選ではトップ3に入る速さをみせたが、決勝では一転して後続に飲み込まれるレース展開となり、6位と7位でフィニッシュした。 これによりポイントランキングでは3番手に後退し、首位の坪井との差は16.5ポイントと差が広がった状態で鈴鹿大会に臨む。 「現状を打開しようとしていましたけど、終わってみると大方の予想どおりでした。坪井選手と牧野選手との位置関係を考えると、もう少し点がほしかったなというのが正直なところです」 そう語るのは野尻の16号車を担当する一瀬俊浩エンジニア。富士の2連戦を終えて、いつになく言葉が少なめだった。 「1レース目の段階から決勝でビハインドだということは野尻選手も気づいていたので、2レース目も勝つのは厳しいなとは思っていました。(第7戦に関しては)そもそもスタートした瞬間に坪井選手を抜くことができなくて、牧野選手に抜かれて……その時点で『厳しいな』という感じでは、なるようにしかならなかったです」 「それよりも富士で起きたセットアップの課題を、どうやって鈴鹿に持ち越さないようにしていくかというところを今考えています」と、富士で調子良く走れなかったというところで落胆も大きい様子だった。 とはいえ、次の鈴鹿大会は例年より2週間遅い11月9日・10日に開催されるため、例年の最終大会より寒くなることが予想される。加えて、野尻陣営は鈴鹿サーキットを舞台にした今季開幕戦で優勝を飾っているという好材料もある。 実際にライバルたちからも「寒い鈴鹿は野尻とTEAM MUGENが速い」という声も聞こえてくるが、一瀬エンジニアは「正直いうと、あまり良くないと思っています」と、開幕戦のようなコンディションにならないと考えているようだ。 「3月ほど気温が下がらないと思っています。今回の富士と比べれば下がると思うので、ダウンフォースが増えることは増えるんですけど、果たしてちょっと下がったくらいで(ダウンフォースが)足りるのか……」 さらに一瀬エンジニアは、こう続ける。 「例年の最終戦もそうですが、10月末と言っても、暑くなると気温が22~23度で路面温度が30度強までいってしまいます。3月の時は10度台(開幕戦は気温12度、路面温度22度)だったと思うので、単純に倍近く変わることになります。開催時期が2週間遅くなったところで、そこまで下がらないと思います」 「正直、寒いコンディションにならないと打開策がなくて、自分たちで合わせにいけている感じはないです。その状況下でいけるかと言われると……『現状では厳しい』と答えたくなりますね」 3月の開幕戦は冷たい風が吹いていたこともあり実質的に冬のようなコンディションだった。そんなコンディションになれば、野尻&一瀬エンジニアが圧倒的な強さをみせていたSF19時代の感触を得られるという。 「(3月の開幕戦は)SF19に近いくらいダウンフォースが出ていましたし、その時はクルマも決まっていたから、それに近いような動きができていました。多分(最終戦は)寒くならないと思っています。特に最近はずっと夏のような暑さが続いて、急激に寒くなることが増えている気がしています。そこがけっこう辛いところ。ここまでポイント差を離されるとなおさらです」 なかなかポジティブなコメントが出てこなかったが、チャンピオン争いに向けては「もちろん全然諦めていません」と一瀬エンジニア。最終大会ではシンプルに“2連勝”を目指すという。 「実際に2戦ともフルマークで稼げば46ポイント獲れますからね。ある意味、僕たちは2レースとも勝つということをしないとチャンスが出てこないと思っています。自分たちのパフォーマンスがなければ(チャンピオンを)手繰り寄せることができないので、そこだけを見てやっていきたいです」 「まずは富士で起きたセットアップの課題を、どうやって鈴鹿に持ち越さないようにしていくかというところを今考えています。先ほど話した気温の問題で(16号車の問題が)消え切らないと思っているので、クルマがしっかり対策できないとと思っています」と、今シーズンを戦ってきた経験も踏まえ、鈴鹿に向けてやらなければいけないことは明確になっているようだ。 野尻も第7戦終了後に「個人的に、この1カ月間で“人生で一番頑張った1カ月”にしないといけないかなというふうに思っています。相当まとめ上げないと無理なことも事実ですが、逆転は充分にできる差なのかなと思います」とコメントしていた。 2レースで16.5ポイント差を逆転して3度目の王座獲得となるか。それが叶わず敗れるか……。その答えは、今週末の鈴鹿で明らかとなる。 [オートスポーツweb 2024年11月05日]