日本のエンゲル係数は先進国で「圧倒的1位」28%超…今後も「食費率」が上がり続ける物価高以外の2つの根本理由
■あじ、さんま、さば…大衆魚が高級魚化、牛肉と鶏肉の価格差拡大 生鮮魚介の主要魚種別の価格を見ると、単価がおおむね200円かそれ以上のまぐろ、たい、えびといった高級魚の価格が1980年代に上昇し、1990年代に低下しており、これが、全体の生鮮魚介の価格推移にむすびついていた。まぐろは2006年から資源量の制約などにより価格上昇に転じている。この結果、高級魚の中でも、まぐろと養殖や輸入が多いたい、えびの価格差が開いている。 一方、単価が100円前後、あるいはそれ以下の回遊魚中心の大衆魚については、2000年代までは低下していたあじ、さんまを含めて漁獲量が減り、最近は全体的に価格が上昇傾向にある。 まぐろを除く高級魚が輸入や養殖の影響で価格が落ち着き、沿岸・沖合資源の減少で大衆魚の価格が上昇しているので、今や高級魚と大衆魚の価格差が大きく縮まり、かつてのような明確な差がなくなっている。 生鮮肉の単価については、牛肉が、貿易自由化前には300円以上、自由化以降には260円~270円程度で推移していたが、その後、2003年の米国のBSE感染牛発見に伴う輸入禁止、2008年の世界的な穀物高騰、2014年の消費税アップ、そして2022年のウクライナ戦争とことあるごとに段階的に上昇を続けている。 豚肉は、牛肉の半分近くの150円弱、鶏肉はそれより安く、100円弱で安定的に推移していたが、2008年には世界的な飼料高騰の影響で肉類、チーズが値上がりした。 このチーズに関してはそれ以降も高値安定が続き、2022年のウクライナ戦争による穀物高騰に円高の効果が加わり、牛肉、チーズ、卵などが全般的に値上がりしている。 こうした動きの中で、高級魚と大衆魚の価格差が縮小傾向であるのとは対照的に、生鮮肉やチーズ、卵の間では相互の価格差が広がってきている。
■欧米ほど激しくはなかったが後を引いている日本のインフレ 物価高騰、すなわちインフレの状況については、以上ふれてきた魚や肉よりも野菜やコメの価格高騰が話題になることが多い。しかし、野菜やコメの価格変動は、天候不順や不作に由来する一時的な性格の強いものであり、それに対して魚や肉の価格変化は、一般的な物価動向に沿うとともに、気象変動や資源状況、あるいは飼料を含む穀物貿易を阻害する国際紛争といった長期的な要因によって影響されるところが大きいものである。 すなわち、そのトレンドを理解することが日本の将来を示唆するような動きであるので、ここでやや詳しく紹介した。 次に、具体的な魚や肉の価格から離れ、より一般的な物価動向について、日本の動きを欧米の動きと比較してみよう。 その場合、世界共通の基準で作成されている消費者物価指数の動きを各国比較するのが王道である。そうした場合に普通使われる対前年同月比の推移を日本と欧米主要国について示したグラフを図表2に掲げた。 この数年は新型コロナの蔓延によって、家計やものの値段が大きく影響されてきたので参考データとして新型コロナが深刻となった時期を知るため、世界の月別の新型コロナ死亡者数の推移を図に同時に示した。 2019年までは各国でインフレ率は1~3%程度で比較的落ち着いた動きを示していた。日本は欧米のインフレ範囲の最低レベルで推移していた。 ところが、2020年からは、折から大流行がはじまった新型コロナのパンデミックにより消費が低迷したためインフレ率は各国で大きく低下し、日本ではマイナス、すなわちデフレ状態に陥った。 ところが、新型コロナのインパクトが弱まりつつあった2022年の2月にはロシアのウクライナ軍事侵攻がはじまり、それにともなってエネルギーや穀物価格が上昇してインフレが顕著に進み、各国で大きな生活上の問題となった。 インフレの高進はロシアのウクライナ侵攻以前からはじまっており、またコロナ被害の程度とインフレがX字交差で推移していることから、コロナの鎮静化とともに生じた巨大なリベンジ消費にコロナの影響で失われた供給力がなかなか追いつかなかったことで世界的なインフレとなり、それをたまたま起こったロシアのウクライナ侵攻がさらに促したという見方もかなり説得力をもっている。 この大インフレ時代に国民が生活苦難に陥った欧米各国では、経済運営に失敗し国民を困窮に陥れたという理由で政権担当政党に対する批判が渦巻くこととなり、これが主因となって、例えば、今年行われた米国大統領選では、民主党バイデン政権の後継候補であるカマラ・ハリス副大統領が野党共和党の大候補トランプ前大統領に敗北した。フランスやドイツなど欧州各国でも政権が不安定となっているのも同じ理由からと言える。 日本ではインフレの程度が欧米諸国と比べてかなり低かったので、欧米諸国における生活難や政権運営の困難さに対して思いが至らない状況にある。 2024年の現在では、世界的には、インフレは大きく収まりつつある。ところが、コロナ禍の影響が欧米より軽かった分、インフレ度も低かった日本では、折から進行していた円安のため、食料などの輸入物価の高騰が続き、それとともにインフレもなかなか収まらず、現状では欧米と比較しても高いインフレ率で推移している。