「我々に価値があるってことがわかったでしょう」トランプ氏“領有発言”とグリーンランド人の“本音” アメリカと中国、そしてデンマークの駆け引きの狭間に置かれる住民の声を聞いた
グリーンランドがアメリカの国家安全保障上なぜ重要なのかは、地球儀を見れば一目瞭然だ。ロシアから北米にミサイルが飛んでくる場合、グリーンランドはその最短コース上に位置する。それゆえアメリカ軍は北部チューレに空軍基地を維持して弾道ミサイルを探知できるようにしている。ただ、この「世界最大の島」が重要な理由はそれだけではない。そこには気候変動も関わっている。 ■中国も北極圏の資源開発や北極海航路拡大への関心は強い 2022年夏、グリーンランドに取材に入った。 西部にある観光の拠点、イルリサットの岸辺に立つと、目の前にディスコ島が見える。この島には世界有数のニッケルの鉱床があるとされ、開発計画が進んでいる。ニッケルは電気自動車のバッテリーなどに必須の希少金属で、計画はアマゾンのジェフ・ベゾス氏や、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏が絡むファンドも支援する。 現地で開発に当たるイギリス本拠の「ブルージェイ・マイニング」社のスティーンスガードCEOは「ロシア、中国といった、欧米とは違う価値観を持つ資源大国への依存から脱却する、という意味でも、グリーンランドの資源への注目度は上がっている」と述べた。つまり経済安全保障の文脈だ。 ニッケルだけではない。グリーンランドにはコバルト、銅、プラチナ、チタン、金といった資源が眠っているが、まだまだ採掘・開発されていない。厳しい気候や地形が開発を妨げてきたからだ。しかし温暖化で気温が上がってくれば状況は変わりうる。グリーンランドの氷床が溶ける、というのは温暖化を象徴する現象としてよく参照されるが、「開発について言えば温暖化はグリーンランドにとってプラスに働くんです」とCEOは苦笑した。 7日の会見でトランプ氏は「ロシアや中国の船が(グリーンランド周辺に)うようよいる「双眼鏡を使うまでもない」と警戒感を示したが、実際、中国は近年グリーンランドへのアプローチを強めてきた。北極圏での資源開発や、温暖化によって拡大が期待される北極海航路への関心は強く、グリーンランドでも空港の拡張工事に参画しようとしたり、ウラン鉱山開発に参入しようとしたりしてきた。(前者はデンマークとアメリカの横やりで頓挫、後者は自治政府内で政権交代があり、環境汚染を気にした新政権がストップをかけた。)こうした動きがトランプ氏の発言に繋がっているのも間違いないだろう。