「我々に価値があるってことがわかったでしょう」トランプ氏“領有発言”とグリーンランド人の“本音” アメリカと中国、そしてデンマークの駆け引きの狭間に置かれる住民の声を聞いた
トランプ氏の「領有すべし」発言についてデンマークの首相は「グリーンランドはグリーンランド人のもの」と言ったが、現在、グリーンランド自治政府には外交に関する決定権はない。デンマークが決めている。アメリカ、中国、デンマーク、といった各国のかけひきの狭間で、当のグリーンランドの人たちはどう思っているのだろうか。 ■デンマーク語が話せなければ高等教育も受けられない…“見下され続けている意識” ヌークの海辺で話を聞いたペール・ブロベルグさんは、自治政府の外相やビジネス貿易経済産業相を歴任した地元の政治家だ。彼にとってはトランプ氏の(2019年の)発言よりも、当時のデンマーク政府の慌て気味の反発が愉快だった。それまでデンマーク政府のグリーンランドに対しての態度は“君たちを相手にする国なんて我々デンマーク以外ないよ”というものだったからだと言う。 「デンマークにとってみれば、グリーンランドはお荷物であり頭痛の種なんだから、グリーンランドはデンマークに感謝すべきだ、という具合でしたからね」 「そこへトランプが“大金を払うよ”と言ったわけですから。我々に多少なりとも価値があるってことがわかったでしょう」 着ている長袖シャツには黒地に白い文字で「DECOLONIZE」つまり「脱植民地化」と書かれている。グリーンランドは人口6万人にも満たないが、実は独立志向が強い。今回、トランプ氏は「住民投票をやれば独立や、アメリカへの編入を選ぶんじゃないか」と述べたが、確かに世論調査をすれば必ず独立支持が半数以上を占める。自治政府のエエデ現首相も独立推進派だ。 そもそもデンマーク人が来る前からグリーンランドに住んでいたイヌイットの人たちは、容姿だけでなく、文化も風習もデンマークのデーン人とは異なる。そして彼らの中には「デンマーク人から見下され続けている」という意識がある。 トランプ・ジュニア氏が投稿した記念写真の一つはヌークの街を一望できる丘に立つハンス・エゲデの銅像の前で撮影したものだ。18世紀にグリーンランドに来てキリスト教化を推進した宣教師だが、私が2年半前に訪れた時には像の鼻のあたりが赤くなっていて、まるで鼻血が出ているように見えた。ブラック・ライヴズ・マター運動に触発された独立派アクティビストたちが赤いペンキを投げつけたのだそうだ。エゲデはキリスト教化を進める中でイヌイットの伝統文化を「異質なもの」として排除、顔や手に入れる刺青や、うちわ太鼓を叩いて歌い踊る習慣なども禁止した。いわばデンマークによる抑圧の象徴だったため、標的にされたのだ。