「我々に価値があるってことがわかったでしょう」トランプ氏“領有発言”とグリーンランド人の“本音” アメリカと中国、そしてデンマークの駆け引きの狭間に置かれる住民の声を聞いた
1950年代にはデンマーク政府が、グリーンランドから22人の子どもをデンマークに移住させて「同化教育」を受けさせ、グリーンランドに戻してロールモデルにする、という、今から考えれば荒唐無稽な社会実験を行った(2020年、デンマーク政府はこの件について初めて公式に謝罪した)。イヌイットはグリーンランドの人口のおよそ9割を占めるにもかかわらず、母語のグリーンランド語に加えて、全く別種の言葉であるデンマーク語が話せなければ高等教育は受けられない、という状況は今も続いている。 ■「植民地マインド」から抜け出そうと動くイヌイットの女性 「この社会システムは、劣等感を植え付けるんです」 そう話すのは、50年代の「実験」に参加させられた児童の一人を母親に持つパニングワクさんだ。グリーンランドの非常に高い自殺率も、蔓延するアルコール依存も、デンマークの支配によって再生産される「自尊心の低さ」が影響していると言う。 「すべてが植民地支配のせいだとは言いませんが、影響はあります。人口500万人の社会(デンマーク)の制度が、わずか5万人の、全く違う文化を持つ社会にコピペされたんです。うまくいくはずがありません」 「言葉を否定され、文化を否定されれば、死にたくなるのも当然です」 実はパニングワクさんも10代の時、二度、自殺未遂をした。酒も13歳から飲むようになった。家族も止めなかった。テレビや雑誌に登場する女性は美しい白人のデンマーク人ばかり。イヌイットのロールモデルはメディアの中にも、周囲にもいなかった。 「素敵な人生なんて私には訪れないんだ、と絶望したんです」 それでも二度目の自殺未遂の後、心機一転、アルコールを絶ったパニングワクさんは、イヌイットのルーツを意識することで自分を取り戻していく。伝統的な刺青を入れ、独立を訴えるアクティビストになった。独立したら全てが解決するわけではないが、「植民地マインド」から抜け出すスタートになるはずだ、と確信している。