女性は運動してもしてなくても、認知症には関係ない!? それでも「運動習慣は超大事」な理由【山田悠史医師】
認知機能に影響があったのは男性だけ
5年後の結果を見ると、全体としてはこれらのグループの間で認知症や軽度認知障害の発症率に大きな差は見られませんでした。しかし、男性に限ってみると、運動を行った2つのグループで軽度認知障害のリスクが低下し、認知機能のスコアも高かったことが報告されています。 一方で、女性では同様の効果が確認されなかったため、性別によって運動の効果が異なる可能性が示唆されています。なぜそのような差が生じたのかはこの研究では分かりませんが、少なくとも男性では週に2回の運動が認知機能に効果を及ぼしそうだということは見えてきました。
運動しても、体力がアップしていなかったら意味なし
また、この研究の中で、運動によって体力が向上したかを酸素の消費量で確認していますが、体力の向上が見られた人は、向上しなかった人と比べて軽度認知障害のリスクが低い傾向も見られました。これは、ただ運動するだけではダメで、運動により体力を向上させることが、認知機能の維持や改善に貢献する可能性を示しています。 また、他の研究でも、運動が認知機能にわずかながら改善をもたらすことが繰り返し示されています(参考文献2)。しかし、その効果がどのぐらい続くのか、どんな種類の運動が最も効果的であるかなどについては、まだ十分に分かっていません。 特に、女性や若い世代における運動の効果についてはまだはっきりと分かりません。運動の種類や強度、持続期間が結果に影響を与える可能性があり、現状では個々の状況に合わせたアプローチが必要だといえます。
運動をすると、脳の細胞が生まれ変わる
運動が認知機能に有益である理由としては、運動により血液の循環が良くなって、脳の機能を改善することが挙げられています。これにより、脳の神経細胞が新しく生まれ変わりやすくなったり、炎症が起こりにくくなったりすると考えられています(参考文献3)。 さらに、運動をする人は、運動をあまりしない人に比べて脳の容積が大きい傾向をとることも分かっています。脳の容積が大きいということは、脳の健康状態が良い可能性を示しています(参考文献4)。 そんな著者の私も、ほとんど毎日ジムでの運動を欠かさないのですが、ジムに行けない日があると、筆が乗らなかったり頭が働かなかったりするのを感じます。この原稿が書けるのも、日々の運動のおかげなのかもしれません。 このように、運動は認知機能の維持や改善に役立つ可能性がありますが、確実に効果があるとは現時点では言い切れません。その効果にはおそらく個人差もあり、運動の種類や強度によっても異なりそうです。
体を動かすといいことしかない
ここで強調したいのは、運動には認知機能とはまた別のところでも多くの健康上の利点があるということです。心臓の病気や糖尿病リスクの低下、筋力や骨密度の維持、気分の改善など、その利点は数えきれないほどです(参考文献5)。これらの効果は間接的に認知機能の維持にも寄与する可能性があります。 また、体を動かすという側面だけでなく、外出することで得られる社会的交流の機会も重要です。運動を通した友人との交流も、認知機能の維持に役立つ可能性があります。
山田 悠史