プレ開幕戦の心理戦…阪神ドラ1佐藤輝明がヤクルトの”全球内角攻め”を返り討ちにした衝撃の神宮アーチの価値とは?
捕手の西田は、チラチラと一塁ベンチを見ていたから、異例とも言える“全球内角攻め”は、高津監督の指示だったのだろう。だが佐藤は、その仕掛けを見事に返り討ちにしたのである。 里崎氏が言う。 「しっかりとコースにきた球威のあるインサイドを打てる打者って12球団で何人いますか。巨人の坂本を含めてほんの数人です。佐藤のインサイドを攻めろ、攻めろと言いますが、本来、そこはどんなバッターでも難しいボールなんです。ただプロのレギュラー、1軍クラスの選手は、インコースは狙えば打てます。佐藤にその技術があるかどうか。つまり狙って打てるかどうかを見てみたいとは思っていました」 まさに佐藤は、この一打で「狙えば打てる」というプロで成功するための資格を証明したのである。こうなると、攻略する側は頭を悩ませることになる。内角攻めがポイントになることは間違いないが、ひとつ間違えばの恐怖心をバッテリーに与えるからだ。 ただ厳密にいえば140キロ前後の寺島のボールは球威に欠けて1級品と言えるものではなかった。佐藤が本物だと証明するためには、各チームのエース級、つまりヤクルトで言えば、開幕投手を務める“ライアン”小川泰弘のインコースのボールを狙って打てるかどうかがカギとなる。 それらを踏まえた上で、里崎氏は、神宮でのヤクルトとの開幕戦が佐藤にとって追い風となり、衝撃のデビューを果たす可能性があることを示唆した。 「まず神宮球場の狭さ。これは佐藤のようなホームランバッターには間違いなく有利です。得意の逆方向の打球が入ってしまいます。加えてヤクルト投手陣の脆弱さもプラスでしょう。コントロール、球威も含めて、佐藤がプロの洗礼を受けるような投手は、そう多くはありません。佐藤がプロで好スタートを切るためには、ヤクルトは絶好の相手ではないでしょうか」 ヤクルトの開幕投手は小川で、ローテーション候補として、この日先発したスアレス、ベテランの石川雅規、高梨裕稔、原樹理に、巨人からトレードで獲得した田口麗斗、高橋奎二、歳内宏明、金久保優斗、吉田大喜、ルーキーの木澤尚文らの名前が出ているが、盤石とはいいがたい。つまり佐藤が、まだ本当の意味でクリアしていない1級品の内角球も変化球も投げてくる投手が少ないのだ。 加えて“打ち下ろし”の神宮球場はセ・リーグでも指折りのバッターズスタジアムである。佐藤が26日の開幕戦で衝撃デビューを果たす条件は整っている。 ただ、特大の一発を浴びたヤクルトバッテリーは、これに懲りずに7回にも、ルーキーイヤーの昨年、ローテーに抜擢され2勝7敗だった吉田大喜が二死満塁で佐藤を迎えて初球、2球目と続けてインサイドを攻めた。変化球を挟みカウントを整えてから22歳の捕手の古賀優大はインコースに構えた。最後は145キロのインハイのボールにつられた佐藤はスイングアウトである。
佐藤の脳裏に「ヤクルトはインコースを攻めてくる」とインプットすることはできたのかもしれない。故・野村克也監督は、「配球とはいかに意識させるか」と説いた。その薫陶を受けている高津監督は“プレ開幕戦”を本番への布石に使ったのだろう。深層心理に刻まれた記憶が、ほんのわずかに佐藤のタイミングを狂わせる可能性もある。 だが、その意識づけをも無駄にしてしまうほどのポテンシャルが佐藤にはあるように思える。オープン戦の新人最多本塁打記録は、長嶋茂雄氏(巨人)が作った7本。今日17日の西武戦を含めて残り4試合で、佐藤はまた歴史を塗り替えるのかもしれない。