生における性の問題…男と女のあいだは、じつに「さまざまな状態」だった
「地球最初の生命はRNAワールドから生まれた」 圧倒的人気を誇るこのシナリオには、困った問題があります。生命が存在しない原始の地球でRNAの材料が正しくつながり「完成品」となる確率は、かぎりなくゼロに近いのです。ならば、生命はなぜできたのでしょうか? 【画像】ウイルスから考える「まぎれもない生物」と「明らかな無生物」のはざま この難題を「神の仕業」とせず合理的に考えるために、著者が提唱するのが「生命起源」のセカンド・オピニオン。そのスリリングな解釈をわかりやすくまとめたのが、アストロバイオロジーの第一人者として知られる小林憲正氏の『生命と非生命のあいだ』です。 今シリーズでは「地球での生物進化に、非生命が生命に至るまでの化学進化についてのヒントがあるか」というテーマで、一連のトピックをご紹介しています。前シリーズ「生命進化にの過程に、化学進化について考察する際のヒントはあるか」というテーマから見えてきた「生命システムの多様性」。 今回からは、「生命のスペクトラム」というテーマで、「生命と生命でないもの」のあいだに連続性を考察していきます。 *本記事は、『生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
虹の色から考える連続性
生命と非生命はデジタル的に0と1に区分できるのでしょうか。それとも連続的につながっているのでしょうか。 連続的なものには「スペクトラム」という言葉が使われることがありますが、もしかしたら生命においても「生命スペクトラム」という概念が成り立つのでしょうか。生命と非生命のあいだをどう埋めればよいかを考えていきたいと思います。 空にかかる虹の色は、日本では「虹の七色(なないろ)」といわれています。外側からいえば、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫です。これはニュートンが著書『光学』の中で虹の色を音階の7音(ドレミファソラシ)と対応させたからで、ニュートン以前は3色とか5色とされてきました。 しかし、いまも虹を何色とするかは国によってさまざまで、オランダやイタリアなどはニュートンに従って7色としていますが、ドイツやフランスでは5色(赤・橙・黄・緑・青)とされ、アメリカやイギリスでは20世紀以降は、青や紫と見分けにくい藍を7色から除いて6色とすることが一般的です。 実はニュートンも、虹の色がはっきり7つに分かれると思っていたわけではありません。光はプリズムを通すと、虹のように紫から赤までの色に分かれますが、それらは連続的であることを彼は知っていました。 色の違いは光の波長によります。太陽からの光は紫外線、可視光、赤外線など幅広い波長にわたりますが、この中でヒトの目で識別できる可視光は紫から赤までの範囲で、波長でいうと380nm~780nmあたりになります(図「太陽光のスペクトル」)。太陽から届く光がいちばん強い範囲を認識できるようにヒトの目が進化したことがわかります。 ただ、生物種によって見ることのできる範囲は異なり、チョウは300nm~700nm と少し短波長(青寄り)にずれていますので、ヒトの目には見えない花びらの紫外線の模様が見えます。 図「太陽光のスペクトル」のように光の強度を波長成分ごとに表したものを「スペクトル」といいます。 スペクトルという言葉自体の起源は古代ギリシャ・ローマ時代にまで遡りますが、光のスペクトルというような今日的な意味で使ったのは、ニュートンが初めてです。 光にかぎらず、連続的に存在する複雑な量を単純な成分に分け、成分ごとに量の大小の分布を示したものも、スペクトルともいいます。英語では「スペクトラム」(spectrum)といいますので、日本語でも後者の場合はスペクトラムとよぶことが多いようです。単純に0か1か、そうであるか、そうでないかとはいえない、そのあいだが連続的に変化している場合などに用いられます。