狼を連れて銀座を散歩し、自宅の庭でハイエナを飼う 「日本を代表する犬奇人」と呼ばれた男の生涯(レビュー)
戦前から戦後にかけて、狼をはじめとするイヌ科動物を独学で研究し、雑誌『動物文学』を立ち上げた平岩米吉という人物がいた。 動物行動学の父といわれるコンラッド・ローレンツより先に、自宅の庭で犬、狼、ジャッカル、狐、ハイエナと暮らして彼らの生態を研究し、フィラリア撲滅のために私財と心血を注いだ。さらに『動物文学』では、「シートン動物記」「バンビ」を初めて日本に紹介している。 この平岩米吉の生涯を描いたのがノンフィクション作品『愛犬王 平岩米吉』(山と溪谷社)だ。 一生を犬に捧げ、偉大な功績を残した米吉とはどんな人物だったのか? 本作を高く評価し、自身も愛犬家を自負している村井理子さんが綴った書評を紹介する。 ※本稿は2024年3月19日刊行のヤマケイ文庫『愛犬王 平岩米吉』に掲載されたものです
愛犬家を自負する私が…
日本国内で飼育されている犬の頭数は700万を超えるとされる。世の中に「愛犬家」と呼ばれる人たちがそれだけ存在しているという意味であり、私自身もその一人だ。それも、相当な犬好きと自負している。 子どもの頃から何頭もの犬と暮らし、大人になってからは3頭のテリア犬を飼い、今現在はラブラドール・レトリバーを飼っている。7歳の雄で、名前はハリー。艶のある黒い被毛がとても美しい犬だ。体格がよく、体重は50キロを超えている。筋肉質で、馬のように力が強い。泳ぐことが何より得意で、豪快に水に飛び込んでいく後ろ姿にいつも惚れ惚れしている。 朝起きてすぐにハリーを撫で、夜、寝る直前までハリーを撫でている。尊い。 しかし、犬を飼うということは、決して楽なことではない。運動量が多い犬種を飼えば(例えばラブラドール・レトリバーのような犬を飼ってしまったら)、たとえ雨が降っていようが、風邪を引いていようが、長距離の散歩に連れ出さなければならない。それも、毎日のことだ。 雪が降る季節に北風に吹かれながら行く散歩は、楽しいというよりは苦行に近い。いや、完全に苦行だ。逆に夏は温度管理に気を遣う。犬は極端に暑さに弱いからだ。 犬には多くの魅力があるが、一旦飼ってしまえば、その飼育費用は決して安くない。フード代はもちろんのこと、体重で変わる医療費も家計を圧迫する。長毛種を飼えばトリミング代が必要だし、短毛種であっても、抜け毛が多い犬種となると、掃除機の一台や二台、壊れることは覚悟が必要だ。家を長期間空ける時にはペットホテルに預ける費用もかかる。 生活の多くの場面で制約を受ける。大型犬の住む家に小さな子どもが遊びに来たら、飼い主は神経をすり減らすことになるだろう。運動をさせるために行くドッグランでは、他の犬と仲良く遊んでと祈るような気持ちになるし、それはもう大変なのだ。愚痴ではない。現実だ。