“ヒール”から“主役”へ。仙台育英・須江航監督が実践する時代に合ったチームづくり
現代の褒めて伸ばす教育方法は、指導者にとって非常に難易度が高いものでもある。それは、高校野球の世界でも同じだ。そんな難しい状況でも、自分なりの指導法を確立している監督たちはおり、その監督が率いるチームは結果を残している。野球著作家のゴジキ(@godziki_55)氏が、「青春って密」のコメントで注目を集めた仙台育英の監督・須江航氏の指導法について紹介します。 【イメージ写真】褒めて伸ばす教育方法は高校野球の世界でも同じ ※本記事は、ゴジキ:著『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ:刊)より一部を抜粋編集したものです。 ◇スター監督・須江航のチームづくりとは? 令和に入り、高校野球で一番勢いに乗っている監督といえば仙台育英の須江航氏だ。今回アポイントを入れた際に、丁寧に須江氏ご本人から連絡がきたが、改めて人間力の高さに感服した。2022年全国高等学校野球選手権大会の優勝時のコメントにもあった「青春って密」「人生は敗者復活戦」などの名言でも知られる有名監督である。 須江氏が仙台育英の監督に就任してからは、東北勢初となる悲願の甲子園優勝を果たし、2019年から2023年は常にベスト8以上まで勝ち上がるなど全国トップクラスの強さを見せている。 また、明徳義塾の名将・馬淵史郎氏からは、2021年の選抜高等学校野球大会で対戦した際に、「東北でリーダーシップ取れる監督かもしれませんね。投手の精神力も強い。脚力もある。よくあれだけ足の速いのを揃えましたなあ」とコメントされるほどだ。 前任の佐々木順一朗氏も甲子園春夏準優勝を記録するなど、東北勢としてはトップクラスの強さを見せていたが、須江氏はそれを上回る勢いで勝ち星を積み重ねている。下記が前任者と須江氏が率いたチームの甲子園成績である。 ・佐々木順一朗氏就任時:29勝19敗、春の甲子園に6回、夏の甲子園には13回出場。春準優勝1回、夏準優勝1回、国体優勝1回、明治神宮野球大会優勝2回。 ・須江航氏就任時:17勝5敗、春の甲子園に3回(交流試合含む)、夏の甲子園には4回出場。夏優勝1回、夏準優勝1回、国体優勝1回。 ◇仙台育英が推し進めたイメージ戦略 強豪校とはいえ監督が交代すると一時的に停滞期が訪れる高校もあるなか、上記の成績を見ても、須江氏率いる仙台育英の強さはアップデートされている。また、2022年夏の優勝以降は、露出が増えたこともあり、高校野球ファンからは絶大なる人気を誇っている。 そのため、仙台育英の試合内容や結果はもちろん、選手の成績なども注目を集める。2022年の優勝前のイメージはどちらかというと、不祥事などの影響で仙台育英はヒールのようなイメージを持たれていた。 しかし、現在は大阪桐蔭などと並び、全国トップクラスの強豪校として、人気の高さもうかがえる。その要因は、須江氏のコメント力の高さや仙台育英野球部全体が気品のある振る舞いをしているからだろう。 つまり、普段から実力はもちろんのこと、応援されるチームづくりも徹底されているのだ。それを裏付けるのは、2017年に起きた不祥事に対する姿勢だ。 このときの須江氏は、ただ野球が強いだけではなく、「仙台育英野球部は地域の皆様から応援される存在であるべき」と考え、そのためには、どのように人間としてあるべきか、振る舞うべきか、という「心の在り方」の部分を意識した。