【ひねもすのたりワゴン生活】滋賀から城崎、そして神戸 5日間1500㎞のクルマ旅 その4
たおやかな湖東の暮らし、豊かな時間。住みたくなってしまう魅惑の長浜。
近江八幡の街歩きは諦めたので、夕食にさえ間に合えばいいと頭を切り替えた。予定ではそろそろ長浜を出発だったけれど、楽しいのなんのって…うしろ髪引かれまくりでどうにも去りがたい。気がつけば、すっかりこの街に情が移っていたのだった。で、もう少し歩いてみたくなって、黒壁スクエアだけではなく、その周辺に足を伸ばすことにした。
町おこしで整えられたエリアから一歩外へ外に出てみると、静かで落ち着いた街並みが広がっていた。住宅が軒を並べ、所々にその生活を支える個人商店が顔を見せた。下校時刻だろうか…子どもたちが賑やかに駆けていく。こういう光景に出会うと、街が活きていることを噛み締める。子どもの笑い声が聞こえない街はどこか寂しい。
網目のように広がる道路はお世辞にも広いとは言えず、幹線道路を除けば自動車の往来も少なかった。それがまた穏やかな印象を与え、骨董屋で買った皿や糸巻きが入った袋をぶら下げて、気の向くまま足の向くまま進んでいくのは楽しいったらありゃしない。散歩で人気のエリアなら、東京にも谷根千とか浅草とかいろいろあるけれど、観光客が押し寄せて、いつしか人々の生活の匂いが薄まってしまった。まさに、お散歩の野外テーマパーク。“~っぽい”建物が目について、ケとハレで言えば、ハレ的な空間が多くなったような気がする。しかし、ここにはしっとりした日常の時間が流れていて、旅の私たちがそこにおじゃましている…という感覚。だから、高揚とか興奮というよりも、静かに嬉しさや喜びが湧き上がってくるのである。
しばらく進むと、小さな交差点の角に鶏肉の専門店があって、年季の入った軒下の銅細工の看板に目を奪われた。「鳥宗」と記されている。ウインドウに並ぶ鶏肉は種類が豊富で、焼き鳥などのテイクアウト系惣菜も旨そうだ。…が、交差点の反対側に目を移すと、そこにももう一軒 (笑)。やはり店の外観が個性的で、そちらは明治や大正の薫り漂う洋風の意匠が凝らされており、実に洒脱。牛と豚の専門店で「鳥宗亭」とあった。鳥宗と姉妹店なのかもしれないけれど、店内に並ぶ揚げ物系惣菜のラインナップが圧巻で、こちらに入ることにした。