【ひねもすのたりワゴン生活】滋賀から城崎、そして神戸 5日間1500㎞のクルマ旅 その4
コロッケやメンチ、トンカツ、串カツなど、15種類ほどの惣菜が、白いパン粉をまとって並んでいる。揚げ置きは見当らず、すべて注文を受けてから揚げるのだろう。ラードだろうか…店内に広がる揚げ油の香りが食欲を誘う。小さい頃、歩き食いは親から厳しく咎められたので、それがトラウマとなってあまり得手ではないのだけれど、この揚げたてを頬張りながらこの街を散歩したら楽しいだろうなぁ…と、品定めをした(笑)。
店内にはベンチが用意されていて、揚げ物の客はここで待つらしい。コロッケとメンチを頼んでしばし………自転車を横づけして地元の客がやってきた。やはり揚げ物目当てで、店とのやり取りを聞けば、今夜のおかずにするようだ。
揚げたての熱々を手に、通りへ戻る。このあたりは、琵琶湖につながる水路があちらこちらでクランクしながら行き交っていて、散歩していると、ほどよい間隔で出くわすことになる。街なかでありながら水は澱んでおらず、周囲に緑もあったりして、その光景が清々しい。兎にも角にも、生活と水が密接な土地柄だ。
古い街並みが廃れることなく活きていて、生活の息遣いが伝わり、水が流れ、緑が散在する。こんな街に住んだらどんな暮らしが待っているんだろう…。妄想癖がむくむくと頭をもたげ、しばし長浜の仮想生活に漂ってしまった。
気がつけば黒壁スクエアの近くに戻っていて、相棒を預けた駐車場は目の前だ。かれこれ2時間の長浜彷徨。この街を堪能するには短すぎる。
最低でも1泊。いや、3泊、4泊して、暮らすように滞在してみたい。でも、そんなことをしたら、そのまま住んでしまいたくなるだろう。 ちょうど下校の時刻、楽しそうな話声と共に子どもたちの姿が街に広がった
この街は愉しすぎる。静かで、豊かで、たおやかだけど、それが私のような粗忽者にはとても刺激的で、その深奥にどっぷりと浸かってみたくなる。湖東を代表する歴史と文化の街は、踏み込んだら抜け出せなくなりそうなちょっと危ない魅力を垣間見せたのだった。
【筆者の紹介】 三浦 修 BXやXMのワゴンを乗り継いで、現在はEクラスのワゴンをパートナーに、晴耕雨読なぐうたら生活。月刊誌編集長を経て、編集執筆や企画で糊口をしのぐ典型的活字中毒者。 【ひねもすのたりワゴン生活】 旅、キャンプ、釣り、果樹園…相棒のステーションワゴンとのんびり暮らすあれやこれやを綴ったエッセイ。
三浦 修