「腐らずあきめず」西武の投手コーチ兼任の40歳サウスポー内海哲也が達成した通算2000イニングの価値
なおも続いた一死一、三塁のチャンスで、6番・アルカンタラがライトへ放った犠牲フライで逆転。6回以降は西武打線が先発のエース上沢直之、セットアッパーの堀瑞輝、守護神の北山亘基のリレーの前にすべて三者凡退に仕留められた。 開幕から4連敗を喫していた上沢は、待ち焦がれた初勝利に「命を懸けるじゃないですけど、それぐらいの気持ちで、絶対に三者凡退で帰ってこようと思って投げた」と、語気を強めながら味方が逆転してくれた直後の2イニングを振り返っている。 対照的に3敗目を喫した平井の自責点が「0」だった結末に、西武の選手たちは何を思ったのか。 特に白星が幻と化す悲運に直面した内海は「5月に一軍に上がれたので、まだまだチャンスはあると思っています」と努めて前を向いた。 「今年は先発ローテーションに入るというよりは、今日のような『頼むぞ、内海』という谷間でいい状態をキープし、あるいはさらに上のレベルのピッチングを求められると思っているので、それをモチベーションに変えて頑張っていきたい」 古賀とはファームでもバッテリーを組み、内海が持つストレート以外の多彩な球種、具体的にはスライダー、チェンジアップ、フォーク、カットボールを巧みに投げ分けて打者を翻弄するためのイメージを、実戦を介して共有してきた。 内海は特にカットボールを「今年からやっとコントロールがついて、使えるボールになった」と、不惑を迎えて投球の幅を広げてくれたと歓迎している。 「自分は不器用なタイプで、なかなか一発で覚えられないんですけど、ちょっとずつ投げていくうちにようやく熟された感じですね。真っ直ぐとスライダーの間のボールを、カットボールで得られたので打者は嫌がるんじゃないかと。今日も自信を持って投げましたけど、古賀が要所でインコースの真っ直ぐを使って僕を上手く料理してくれた。140kmに届かない真っ直ぐでも、ああやって使わないと変化球が生きてこないので」 ルーキーへ全幅の信頼を寄せる内海は、プレーボールを前にして「任すよ」と、あとは「ファームの試合と変わらずに、僕を引き出してほしい」とだけ注文をつけた。ベテランの老獪さが散りばめられた投球に、辻監督も唸るしかなかった。 「よく踏ん張ってくれたと思います。さすがですよね」 内海の今後に関しては言及しなかったが、ローテーションの谷間が生じたときに先発を任されるだけの信頼は確実に得た。それでも内海は「いろいろなプレッシャーがありますよ」と本音をのぞかせながら、自らの立ち位置をこう語った。 「常に一発回答が求められるし、ダメだったらもうチャンスはないんじゃないか、という崖っぷちの状態がこれからも続くと思う。そのなかで一回一回のチャンスで、今日みたいにしっかり試合を作ってチームに勝利を、という気持ちで投げていきたい」 長く目標に掲げてきた通算2000投球イニングは、2022年5月7日をもって通過点に変わった。酸いも甘いも噛み分けてきたベテラン左腕は、西武にとっては窮地となる先発ローテーションの谷間が生じるたびに、これからもいぶし銀の輝きを放っていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)