ルノーが考えた失業問題解決へのアイデアとは? カンヌライオンズ2024に学ぶ 企業の社会課題解決3つのパターン
パターン③ クリエーティブな「広告」で心を動かす
サッカーフランス代表の青いシャツを着た男性のスター選手が激しい球際の攻防を演じ、見事なヘディングシュートを決める。Xのインフルエンサーが投稿した動画は人気を集めるが、数時間後に、その映像は女子選手の試合を加工したものであることが明かされる――。 20億を超えるインプレッションを稼いだこの動画のキャンペーンは、フランスの通信大手オレンジによるもの。長年サッカーを支援してきたオレンジは、2023年の夏、女子サッカーのW杯開催が数週間後に迫っても放映権を購入するメディアがいないことに問題意識を持っていた。サッカー人気が高いフランスでも、女子サッカーは男子よりも技術的に見劣りするものだという偏見が幅を利かせ、男性サポーターの3分の2以上が女子サッカーに対して差別的な態度を示しているという調査もあった。 そこで制作した映像は、種明かしされるまで、男子の試合のものだと信じて疑う人はほとんどいなかったほど精巧につくられている。受賞したのも「フィルム」部門。1954年に「国際広告フィルム祭」としてカンヌライオンズが立ち上げられたときからの格式ある部門であり、毎年最終日に受賞作が発表される目玉部門でもある。アイデアだけでなく、映像の出来栄えも厳しく問われる審査をくぐり抜けてグランプリを獲得した。 河尻氏によると、カンヌライオンズで各部門のグランプリに輝くのは、「広告産業の新たな可能性を提示していたり、未知のポテンシャルを引き出したりしているもの」だという。河尻氏はオレンジがグランプリを獲得した施策について、「企業のパーパスとエンターテインメントを極めて巧みに両立している」と分析する。動画は飛び抜けたインプレッションを稼いだだけでなく、視聴した90%の人が社会の性差別的な固定観念への認識を高めるものだと感じ、88%が学校で見せたほうがいいと答えたとされる。広告に本来備わっている、人々の心を動かす力が、社会課題にポジティブな変化をもたらした成功事例だといえそうだ。