途上国を「法」で支援する、「日本型」国際貢献が支持される理由
「カンボジアには当初、(旧宗主国である)フランスが支援に入り、刑法・刑事訴訟法の制定に取り組んでいました。さらに民法にも関わる予定だったんですが、先述の通りカンボジアには人がいません。もうそこまで手が回らない、ということでフランスが降りてしまった。そこで、すでにベトナムでの支援活動に従事していた日本に白羽の矢が立ったのです」 民法作りは困難を極めた。通常は、当該国がまず草案を作り、それをもとに日本側の支援スタッフと議論しながら精度を高めていく。しかしカンボジアには草案を作れる人材がおらず、日本側がクメール語で作るところから始まった。 「カンボジア民法は1305条あります。それを概念の説明から1条ずつ、一言一句確認しながらやっていったと聞きます。能力と言葉のギャップがありながら、よくここまでのものを作ったと思いますね」
磯井さんはこの日本のやり方を「寄り添う支援」という。 「時間がかかりすぎるほど、きめ細かく取り組んでいます。それにより現地の人からも信頼を得ているのです。日本も明治維新や、第二次大戦後の改革で苦労しているため、単なる自国のコピーではだめだという感覚を持っています。相手国に寄り添い、どうすれば変わるのか、真剣に考えています」 この寄り添い型の支援こそが、日本が法整備支援のパートナーに選ばれる理由だとJICAのガバナンス・平和構築部ガバナンスグループの小林洋輔参事役も強調する。 「自らの経験もありますし、比較法学研究の蓄積も評価されています。日本であれば、自分たちの文化や価値観を重視した形で法整備支援をしてくれるだろうという期待は大きいです」 カンボジアでの活動で、磯井さんにとっても忘れ難い、ねぎらいの言葉がある。 「一緒に活動をしていた司法省の女性次官が、国連の会議に呼ばれて法制度の発展についてスピーチする機会がありました。そこで日本の支援をアピールしてくれたのです。彼女は20年も日本と一緒に仕事をする中で、日本の支援が必要だとずっと言ってくれました」