インバウンドや円安で浅草が大盛況!人力車ビジネスのイマと「東京力車」が支持されるワケ
2020年より続いたコロナ禍が落ち着き、活気を取り戻してきた観光業界。東京では円安の影響もあり、観光地の浅草に国内や国外からの観光客が押し寄せている。お土産屋やホテルなどの業界が好景気となっているなか、特に勢いづいているのが人力車だ。 【写真】現役俥夫が結成したユニット「東京力車」。数多いるドライバーのなかでも大人気だそうだ 今回は浅草を中心に人力車ビジネスを展開している株式会社ライズアップ チーフマネージャーの片山舜平さんにインタビュー。コロナ禍前後の業界の状況や、インバウンドで沸く人力車の最前線、そして東京力車が観光客やファンに支持される理由などについて話を聞いた。 ■コロナ禍で大苦戦!東京力車が始まったきっかけ ――初めに、貴社の事業内容について教えてください。 【片山舜平】弊社は2019年創業の東京・浅草を中心に人力車による観光案内事業「東京力車」を展開しています。浅草の雷門付近を中心に観光人力車を運営しており、着る赤い法被がトレードマークです。浅草を訪れた方なら、一度は見たことがあるかもしれません。 【片山舜平】私たちは「世のため人のために何ができるか」を考え、結果として人力車事業を始めました。私たちは浅草という観光地で事業をしていますが、観光地って人がたくさん集まるので、どうしても従業員の働き方が流れ作業になってしまうことが問題でした。 【片山舜平】ですが、観光客の方々からすれば、せっかく旅行に来たのに流れ作業的に接客されてしまうとすごく悲しいですよね。ですので、私たちは「お客さまは人生で一度しか人力車に乗らないかもしれない」という意識を持って、お客さま一人ひとりに真摯に対応することを心がけています。これが、競合他社さんとの大きな違いだと自負しています。 ――事業のうえで大切にしていることは? 【片山舜平】観光客の方を大切にすることはもちろんなのですが、浅草という街があって初めて私たちの事業が成り立ちます。ですので、街の人たちに「東京力車があってうれしいな」と思ってもらえるよう、街の掃除をしたり、常に笑顔で爽やかに挨拶したりなどを徹底しています。 ――先ほど2019年創業と伺いましたが、コロナ禍を乗り切るのはすごく大変だったのではないでしょうか? 【片山舜平】コロナ禍は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などがあり、浅草から観光客が消えてしまいました。普段であれば雷門の前は観光客で溢れかえっていますが、当時は誰もいない状態でしたね。仲見世通りも10人くらい歩いていたら「今日は人が多いね」と言っていたほどでした。 【片山舜平】このような状況下で何ができるかを考え、オンライン人力車ツアーを開催したり、弊社ボーカルユニットによるオンラインのファンイベントを行いました。ソーシャルディスタンスを保ちながら人力車と浅草を楽しんでもらう施策に取り組みました。人力車にカメラを搭載してリアルタイムで配信し、お客さまの行ってみたい場所を訪れたり、観光スポットを紹介したりしていましたね。 ■インバウンドで大盛況!活気あふれる人力車業界 ――ここ1年くらいで観光が復活し、円安の影響もありインバウンドの需要が増えていますが、どのような変化がありましたか? 【片山舜平】やはり外国人観光客が一気に増えたことが大きいですね。そのため、弊社では外国語を使う意欲のある学生アルバイトを採用したり、ポケトークなどの翻訳機を用意したりして対応しています。英語が話せるドライバーによる英語レッスンも開催しています。 【片山舜平】また、利用者の比率では台湾、韓国、中国、インドネシアの方が多いですね。欧米系の人たちも多いのですが、やはり近隣の国々からのお客さまが増えていますね。特に台湾の方々は親日家が多いので、一番来日されている印象はありますね。使い方としては、観光地巡りや行きたい場所への移動が大半です。 ――一方で日本人のユーザーはどのような形で人力車を使われますか? 【片山舜平】もちろん観光地を巡ったり、行きたい場所に移動したりといった従来の使われ方をする人も多いのですが、最近特に多いのはリピーターの方たちですね。ドライバーのファンになってくれているユーザーの方も多く、なかには2~3時間、もっと多いと6時間案内することもあります。 【片山舜平】いわば一種の推し活ですね。リピーターの方は自分と相性のよいドライバーに会いにきて、おしゃべりを楽しみながら観光する人も多いですね。先ほどお話ししたボーカルユニット「東京力車」の3人は特に人気で、出勤すると予約で埋まってしまいます。お客さまのなかには1日予約される方もいらっしゃいます。 ――すごいですね。推し活的に人力車を利用されるお客さまの男女比はどれくらいでしょうか? 【片山舜平】そうですね、だいたい男女半々くらいの割合だと思います。男性は女性ドライバーに、女性は男性ドライバーを予約されることが多いですね。また、「最近こんなことがあったよ」といった日常のことをおしゃべりしにきている方も多いそうです。 【片山舜平】人力車といえば移動や観光地巡りのイメージがあるかと思いますが、現在ではさまざまな形で利用されるようになっています。私たちも新しい需要を察知して、どんどん新しい取り組みに挑戦していきたいです。 ■厳しい研修を乗り越えて…Z世代に向けた人材育成 ――貴社はドライバーの福利厚生やインセンティブにも力を入れていると聞きます。どのようなことに注力されているのでしょうか? 【片山舜平】弊社では人材育成の一環として、Z世代に向けた社内制度や福利厚生、給与体系を設定しています。制度では浅草での食事昼食費用を支給する「浅草探求手当」や海外のお客さまを担当するための「海外おもてなし研修」、給与体系では「SNS手当」といった頑張りを還元する制度を設け、人材育成を実現しています。 【片山舜平】このような取り組みを積極的に行った結果、年間乗車人数が約5万4400人を突破、SNS総フォロワー数が22.2万人に増加、そして基本時給1800円を実現し、学生アルバイトでも月収80万円以上を目指せるようになりました。 ――学生でそこまで稼げるのはすごいですね。稼ぎたい人がたくさん集まってきそうですが、その辺りはどのような選考をするのでしょうか? 【片山舜平】面接の段階でほとんど弾きますね。「お金を稼ぎたい」「成長したい」という目的でたくさんの方に応募いただきますが、目的はそこではないことを伝えます。私たちはすべてお客さまのために事業を行っているのであり、お金や成長はあくまで通過点でしかありません。 【片山舜平】研修ではガイドの仕方をはじめとしたひと通りの流れを伝えるのですが、ここで日頃の生活が反映されてきます。遅刻したり、挨拶ができなかったりなど、普段だらしない生活をしている人がお客さまの前に立てるわけがないのです。だからこそ身だしなみから礼儀作法まで教え込みます。すごく厳しいので最終的にデビューするのは、応募の段階で10人いたとしたら、最終的に1~2人残るくらいですね。 ――相当厳しそうですね。私ならついていける気がしません。 【片山舜平】やはり、中途半端な気持ちではお客さまのご対応ができませんからね。先ほども申し上げた通り、お客さまにとって人力車は「一生に一度乗るか乗らないか」の体験です。その一回をだらしない人が対応すると、お客さまにとって嫌な思い出となってしまいます。だからこそ、私たちは本気でお客さまに向き合い、接客できる人を厳選しています。 【片山舜平】お給料は確かによいかもしれませんが、それ以上に私たちが求めるハードルも非常に高いので、本気の人しか稼げない業界です。余談ですが、ドライバーの経験があると就職活動で最強になれるそうです。礼儀作法も身についていて、社会のルールもわかっていて、営業ができて、おまけに体力もある。会社からすればこれほど優秀な人材はないですよね。 ■「これからも世のため人のためのサービスを展開したい」 ――今後の人力車のビジネス展開の展望についてお聞かせください。どのようなことに挑戦されたいでしょうか? 【片山舜平】現在は浅草をメインに事業を行っていますが、他の場所での展開もできればいいなと思っています。東京23区全部で人力車を走らせるとかしてもおもしろいかもしれません。最近の取り組みとしては、長崎で人力車を1カ月限定で運行しました。東京だけでなく、ご縁をいただいた場所にてさらなる展開をしていくのが夢ですね。 【片山舜平】私たちの野望は、お客さまのために事業をしていき、そのために人を増やして会社を大きくしていくことです。どの分野でもどの場所でも、世のため人のため、そして乗っていただいたお客さまのために何ができるかを常に考えていくことを大事にしています。ぜひ皆様の浅草観光で最高の思い出を作っていただけるよう、これからも頑張っていきたいですね。 ――ありがとうございます。最後に、これから浅草観光に来られるお客さまにメッセージをお願いします。 【片山舜平】弊社をお選びいただくうえでの大きなポイントは、男女どちらのドライバーも選べることです。特に女性ドライバーは約30名おり、これほど多くの女性ドライバーがいる会社は東京力車だけだと思います。そして、サービスにおいても日本一を自負しておりますので、浅草に来られた際はぜひ東京力車をご用命ください! 取材・文=越前与