羽生の史上最強プログラムに隠された“秘技”
フィギュアスケートのグランプリシリーズ、スケート・カナダの男子フリーが現地時間31日、カナダのレフブリッジで行われ、SPで6位と出遅れた羽生結弦(20歳、ANA)がフリーで2位となる186.29点をマーク、計259.54点で、総合2位と挽回、表彰台に上がった。優勝は、ソチ五輪銀メダリストで地元カナダのパトリック・チャン(24歳)。SPで首位の村上大介(24歳、陽進堂)は3位だった。 右手の二本の指を胸の前で立て、左手をさっと上げる。映画「陰陽師」で安倍晴明役を演じた野村萬斎が、手刀と呼ばれる二本指を立て剣印を結ぶポーズをリメイクしたもの。和笛のオリエンタルな音調に乗って羽生のフリー演技がスタートした。 冒頭の4回転サルコー、4回転トゥループと、立て続けに4回転ジャンプの着氷を綺麗に決めると、トリプルフリップから、フライング足替えコンビネーションスピン、ステップシークエンスを経て、体力も気力も消耗する勝負の後半へとつなげた。 プログラム3つ目の 4回転ジャンプとなる、4回転トゥループ+2回転トゥループのコンビネーションジャンプでは、4回転の着氷で少しバランスを崩し右手をついたが、すぐに持ち直して2回転トゥループにつなげた。だが、続くトリプルアクセル+トリプルトゥループのコンビネーションジャンプは、後半のジャンプをシングルにしかできなかった。 元全日本4位で、フィギュアに関する著書もある現在インストラクターの今川知子さんは、「かなりの体力の消耗でトリプルアクセルの入りから少しよろける感じがあった。おそらく乳酸が筋肉に蓄積し足に力が入らずバランスを崩したのかもしれません」と言う。 だが、直後のトリプルアクセル+シングルループ+トリプルサルコウは成功。トリプルループから続く、プラグラム最後のジャンプであるトリプルルッツでは、転倒したが、最後まで気力を振り絞って会場の拍手にあわせて力強いステップを刻んだ。演技が終わると膝で手を置きしばらく動けないほどだった。 今川さんは、「最後のスピンの前のコレオシークエンスにハイドロブレーディングと言われるエッジを深く倒して、足を伸ばし、氷上を手で支えて滑る高等なテクニックを入れてきました。4回転を3つ。しかも、後半にコンビネーションで入れ、トリプルアクセルプラス3回転のコンビネーションを2つも組み込むプログラムは、過去に例がないほど難しいものですが、さらに体力を消耗するハイドロブレーディングまでを最後の最後に入れてくるプログラムは、もう凄いとしか表現ができません。腰の位置も浮き、疲れは顕著なはずが、この日は、もう気持ちで持ち直していました」と、最後のジャンプを終えた後のコレオシークエンスに入れ込んだハイドロブレーディングに“史上最強のプログラム”に秘められた決意と凄みを感じるという。