金足農・吉田輝星が挑む「甲子園優勝投手はプロで大成しない」のジンクス
金足農の吉田輝星が力を抜いたコントロール重視のピッチングで9安打されながらも日大三を134球で1失点に抑えて完投勝利、秋田勢としては103年ぶりの決勝進出を決めた。決勝の相手は春夏連覇を狙う大阪桐蔭。ドラフト1位候補の藤原恭大、根尾昴昂の2人を打線に並べる高校野球界の“巨人”だ。決勝まで9人で戦ってきた雑草軍団vsエリート野球高の対決に注目が集まるが、吉田は、5連続完投で、ここまでの総球数が749球となった。決勝で151球以上を投げると、900球を超えることになり、マークするプロのスカウトを「怪我が心配」とやきもきさせている。甲子園の優勝投手となり人気が急上昇し、プロ入りへ大きな付加価値が生まれることとは裏腹に「これ以上、無理しないでくれ」が本音だろう。 東北勢として悲願の初優勝を狙う吉田には同時に打ち破ることに挑戦するジンクスもある。 夏の甲子園優勝投手は大成しないーーのジンクスである。夏の甲子園の優勝投手で、プロ入り後、200勝以上したのは、東京セネタースなどで活躍した中京商の野口二郎さんの237勝だけ。選抜の優勝投手では、岡山東商の平松政次さんが大洋で活躍して201勝を挙げているが、夏の優勝投手で100勝以上した投手は、真田重蔵さん(海草中)の178勝、桑田真澄さん(PL学園)の173勝、松坂大輔(横浜)の日米通算169勝、田中将大(駒大苫小牧)の日米通算160勝、尾崎行雄さん(浪商)の107勝、野村弘樹さん(PL学園)の101勝の6人しかいない。春夏合わせて優勝投手が延べ70人プロ入りして、このパーセンテージは、決して低いとは思わないが、夏の甲子園優勝投手という期待値からすれば「大成しない」とのくくりでまとめられてしまうのだろう。 この20年の夏の甲子園優勝投手のプロ入りを表にしたが、実に12人がプロ入りして、9人がドラフト1位で指名されている。独立リーグにいる正田樹を除く11人が現在もNPBでプレーしており、中日で奇跡の復活を果たしている松坂、ヤンキースのマー君の2人は別格として、2015年に東海大相模で優勝投手となり中日入団3年目の小笠原慎之介は、今季ローテーに入り5勝、2016年に作新学院で夏を制した今井達也も西武入団2年目にして夏場からローテー入りしてきた。 特筆すべきは、ヤクルトに移籍して、中継ぎにて存在価値を示している2001年の日大三高のV投手、近藤一樹だろう。今季は53試合に登板して3勝3敗1セーブ26ホールドの数字を残している。 だが、2010年に沖縄・興南で春夏制覇をした島袋洋奨は、中央大を経てソフトバンクに入ったが、今なお、2軍生活。3年連続で2桁勝利を挙げていた阪神の藤浪晋太郎は、大阪桐蔭の春夏連覇時のエースだが、制球難を脱しきれずに2軍で調整中。前橋育英のV投手である西武の高橋光成も肩痛で出遅れて伸び悩んでいる。早大を経てプロ入りした斎藤佑樹は、日ハムで今季2度先発チャンスをもらったが、生かすことができずに崖っぷち、このままならオフの戦力外も避けられない状況にいる。「プロでの大成」という定義をどう捉えるかは難しいが、甲子園優勝投手の誰もが、プロでもエースとして長いシーズン活躍するわけではなく、そこがジンクスといわれる所以なのだろう。 なぜ夏の優勝投手は大成しないのか。その理由のひとつが、夏の猛暑の中での決勝までの登板過多だ。優勝までは5試合、あるいは6試合投げることになり、5年前の95回大会から準決勝前に“休養日”が設けられるようになり、今大会からは、延長13回以降にタイブレークが導入されるに至ったが、その昔は連投が当たり前だった。今回、金足農の吉田も準決勝、決勝と連投となる。 元ヤクルトの片岡宏雄さんも、その影響をこう語る。 「甲子園に出ると、どうしても頑張るんだよね。だから実力以上の力を発揮できる舞台でもあるんだが、決勝まで来るようなピッチャーは頑張りすぎて、それが終わってみたら、肩、肘に大きな負担となった場合も少なくない」