「言うべきか言わざるべきか」今も娘に隠す“正体”──髭男爵・山田ルイ53世の葛藤
……自称貴族のコスプレキャラ芸人、つまりは筆者にとって、大切なアイテムの一つシルクハット。書斎の片隅にコッソリと保管していたのだが、それを発見しただけでなく、逐一数をチェックしていたらしい。 在庫と帳簿を突き合わせ、不正を暴くマルサのような手口に、「えー……パパは知らないなー……」ととぼけるくらいしかすべがなかった。 今のところ父の正体に長女はそこまでご執心でもなく、つかまれた証拠(?)も断片的で、“一発屋”という核心部分には程遠いのが救いだが、否定という徳俵でこらえるのも、そろそろ限界かもしれぬ。 「基本的には、子供と親は、別の人間です。『ずっと気をつかって仕事を内緒にして、わたし大丈夫なのに……』とか、『もうばれているのになんでわたしに内緒にするのかな』とか、その言わない気遣いが、子供にとって、重荷かもしれませんよ。内緒にすることで子供はお父さんに不信感をもつかもしれません」 かんで含めるように話す関谷医師に、どうしたものかと黙りこむ筆者。刑事ドラマなら、そろそろ容疑者が、「……殺すつもりはなかったんです」と自供を始める頃合いである。 実際、「オレ、もう全部(娘に)言っちゃいます!」と喉まで出かかったが、「お嬢さんが中学生くらいになると、もう職業うんぬんじゃなく、洗濯物を別にしてくれとか、近くに寄るなとか、父親を避けたり表面的には反発することが増えてくるかもしれませんよ。それは、心から嫌いになっているわけではなくて心の底では父親を気にしているんです。でも、そのときもしお悩みでしたらおいでください」という身も蓋(ふた)もない関谷節に、いったんゴクリとのみ込んだ。 “ルネサンス”を代表する劇作家、シェイクスピアの名ぜりふになぞらえるなどおこがましいが、いまだ「言うべきか言わざるべきか」という地点で立ち往生している筆者。 「長女の20歳の誕生日にワインで乾杯した後、正体を明かそう!」とかつて思い描いた夢のプランも、大幅な前倒しを余儀なくされそうだ。 Xデーが、5年後なのか、3年後なのか、それはわからない。 ……たぶん、今年の秋だろう。 --- 山田ルイ53世 お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。「新潮45」で連載した「一発屋芸人列伝」が、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞 作品賞」を受賞。近著は『パパが貴族』(双葉社)。