「21世紀のゴジラ」トランプは、中国を踏み潰すなら「中国の失敗」に学べ!
「トランプ公約」、その救いがたい「矛盾」
思うに、ドナルド・トランプは、21世紀前半の「病めるアメリカ」が生んだゴジラである。シン・ゴジラが来年から再び、太平洋を越えて中国を襲いに来るのだ。もしくは関税や防衛費の問題を巡って、日本をも踏みつけるかもしれない。 だが、映画のゴジラがいつも最後は「爆殺」されるように、アメリカのシン・ゴジラも、うまくいかないと思う。それは主に、政策、人事、年齢という「3つの失敗」による。 まずは政策について見ていこう。大統領選挙のキャンペーン中、トランプは実にいろんな公約を「放言」してきた。 洋の東西を問わず、民主国家の有権者というのは、選挙後の当選者に、公約したことの一刻も早い実現を望むものだ。だが、いまのアメリカの多くの有権者が望んでいるのは、もしかしたら「トランプの公約」が実現しないことかもしれない。なぜなら、それらはどう見ても、矛盾に満ちているからだ。 例えば、「関税の引き上げ」と「インフレの抑制」という二つの公約は、互いに相反している。 アメリカの製造業は、周知のように衰退し、いまや多くのモノを中国などから輸入している。そうした中で関税を引き上げれば、輸入品は高くなるので、当然ながらモノの値段は上がる。さらに言えば、高止まりしたアメリカ製品を世界中が敬遠するだろうから、世界的にもますます中国製品が有利になる。 逆にインフレを抑制しようと思えば、むしろ関税を下げて、外国から安い商品が入りやすくするのが筋というものだ。日本でも関税を大幅アップしたら、「100円ショップ」は成り立たなくなる。 同様に、「不法移民の強制送還」と「インフレの抑制」も矛盾している。不法移民を強制送還すれば、安価な労働力が失われるから、生産コストが上がってモノの値段は上がるに決まっている。
北京でも労働を担う「低端人口」を一掃
中国ウォッチャーとして言わせてもらうと、2017年の暮れに、北京で同様のことが起こった。同年10月に開いた第19回中国共産党大会で強大な権力を手にした習近平総書記は、満を持して、かつて福建省と浙江省で勤務した時代に腹心だった蔡奇を、自らの故郷であり、首都でもある北京市の共産党委員会書記(市トップ)に据えた。 その直後、何かの集まりの時に、ボスである習近平総書記が、「『老北京』(ラオベイジン=北京の都市戸籍を持つ昔からの北京っ子)がのどかに暮らしていた旧き良き北京がなくなった」とぼやいたそうだ。すると、それを聞いた蔡奇・新党委書記が突然、「低端人口一掃運動」を始めたのである。 「低端人口」(ディードゥアンレンコウ)とは、地方の農村地帯からやって来た、いわゆる出稼ぎの「農民工」(ノンミンゴン)と、その家族だ。彼らは北京の都市戸籍を持っておらず、市の郊外の貧民街などで暮らしていた。2300万北京人の約3分の1を占め、中国全土には「農民工」が約3億人いる。 たしかに、「低端人口」は北京で問題になっていた。犯罪が増えたり、街が汚くなったり、景観を損ねたりということだ。 私は地下鉄10号線の車内で、地下鉄でのマナーを巡って、「老北京」の高齢女性と年若い「低端人口」の女性が、ヒステリックな口論をしている場に出くわしたことがある。周囲からは「低端人口は出て行け!」というヤジが飛んでいた。 だがその反面、彼らの労働の上に、北京人の生活は成り立っていた。男性は工事現場の労働者や宅配便の配達員など、女性は一般家庭の家政婦や、オフィスビル、ホテルの清掃員、レストランの従業員などをしていた。 ところが、蔡奇党委書記の号令一下、彼らを街から一掃してしまった。貧民街も次々に解体された。