酷暑の中、スーパーの外に子どもを放置して買い物する母親に遭遇。その時、私たちは何ができるのか…
世間から「大丈夫?」と思われがちな生涯独身、フリーランス、40代の小林久乃さんが綴る“雑”で“脱力”系のゆるーいエッセイ。「人生、少しでもサボりたい」と常々考える小林さんの体験談の数々は、読んでいるうちに心も気持ちも軽くなるかもしれません。第46回は「毒母になにもできず自省」です。 * * * * * * * ◆スーパーで怒鳴る母 「もう、あんたなんて産まなきゃ良かった!!」 ……はて? ここは世田谷区のスーパーのレジコーナー。会計を終えた客が購入品を袋に詰めるスペースで、ドラマのロケをやっているわけではない。声が聞こえたほうに視線を向けると、40代くらいの女性=母親がおそらく自分の子どもである、小学校高学年くらいの男子に向かって怒鳴っていた。 いかにも小学生らしいキャップ、トレーナー、ハーフパンツという格好の男子に比べて、母は一見すると派手な格好をしていた。いや、正直に書こう。スーパーには似つかわしくない、ケバい雰囲気だった。 「私さ、何度も何度も言ったよね?なんで言うこと聞けないのッ!? 同じことばっかり言っているから、私、頭がおかしくなりそうじゃない」 母親が小学生の息子に何を要求しているのか、具体的には分からない。そもそも、我が子かどうかも分からないけれど、子ども相手に高圧的な口調がすぎる。隣で聞きながら驚きとともに、モヤモヤが止まらない。私だけではなく周囲の客も彼らに視線を送っている。 すると、何も返事をしていなかった息子が、急に会計の終わった母親の買い物かごからお菓子を抜き出して、出口まで一目散に駆け出して行った。 「あ! こら待ちなさいよッ!!」 追いかける母親は途中、スーパーに置かれた鏡で前髪を整えていた。
◆歩きながらメイクをする母 鏡の前にいる母親を通り過ごし、店外へ出ると先ほどの息子がいた。そばには弟と妹らしき、未就学児らしい2人がいる。息子はさっき母親から奪ったお菓子を、2人に分け与えていた。うれしそうに食べる2人の笑顔がいまだに忘れられない。 (……ということは、なんだ? お兄ちゃんだけスーパーの買い物につきあわせて、弟と妹は外で待たせていたということ? 今日び、ワンコだって店外で待たせておくのはNGと言われる時代なのに、小さな子どもだぜ……?) 実はこの親子に遭遇したのは、酷暑だった今年の8月のこと。炎天下の昼間に子どもを長時間置き去りにしていたなんておかしい。よく車内に子どもを放置して、パチンコに興じる親のニュースを聞くけれど、私からするとどちらもそう変わらない。むしろ、”連れ去り”の心配はしないのだろうか。あまりのことを目撃したショックで帰れなくなり、私がスーパーの前で立ち止まっている間に背後から母親が退店してきた。 スマホで誰かと甘ったるい声で会話をしている。電話を終えると今度はバッグから、ファンデーションのケースを取り出して、頬にパフを当てながら歩き出した。歩きながらメイクしている女性なんて、まだ日本にいたのか。 メイクしながら歩く母親に、3人の子どもがついていった。お兄ちゃんが妹の手を引いている。スーパーの購入品に、バッグに、ファンデーションケースに、パフ。両手がふさがった母親は子どもたちに一瞥もせず、スタスタと歩いていくだけ。彼らは親子なのだろうか? ああ、でも「産まなきゃ良かった!」って言っていたっけ。