<喘息の吸入器1個がCO2換算28キロの温室効果ガス排出?>地球に配慮した治療が世界の「新たな目標」、自分と自然のためにできること
病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。<本日の患者> H.S.さん、42歳、女性、養蜂場勤務。 「H.S.さん、前回お話ししたように、今日は吸入器の使い方を確認しようと思いますが、それでよかったですか」 「はい、大丈夫です。吸入器を持ってきましたよ。4週間ごとの喘息コントロールテスト(ACT)は、23点、22点、23点でした」 「ちゃんとテストしてくれたんですね。嬉しいです。その点数、どう思いますか」 「前の冬より良くなっていますよね」 「その通り、素晴らしいです」 H.S.さんは、郊外にある養蜂場に勤めている。兄夫婦が経営している養蜂会社で主に現場のマネジメントを担当している。高校生の頃からの喘息で、私のいる診療所とは10年前に結婚してこの町へ来て以来の付き合いである。 2023年4月の『知っているようで知らない喘息の症状と治療アプローチ』で紹介したように、喘息は家庭医が最も頻繁に遭遇する慢性の病気のひとつである。「慢性の病気」では、それが完治するというよりも「病気を持って生きていく」ということになるので、自分の病気のマネジメントへの動機を維持してもらう工夫が必要だ。 そのために私が普段していることは、患者に過去4週間の症状を振り返る喘息コントロールテスト(Asthma Control Test; ACT)を毎月チェックしてもらうこと、そして年1回、治療に使用している吸入器の使用方法を診察時に確認させてもらうことである。
なかなか難しい吸入器の正しい使い方
これも23年4月に紹介したように、喘息の治療には多くの薬剤が使用される。中でも口から薬剤を吸い込む吸入薬が重要な役割を果たしている。 吸入薬を吸入するための機器(吸入器)には、大きく分けて、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー定量吸入器(DPI)、そしてソフトミスト定量吸入器(SMI)の3種類がある。MDIは充填されているガスの圧力で薬剤が噴射されるもの、DPIは粉末になっている薬剤を自分で吸い込むもの、そしてSMIはゆっくりと噴霧される吸入液を吸い込むものである。 どれも使用方法があまり簡単とは言えず、MDIを使用している患者の90%、DPIを使用している患者の54%までが使用方法を誤っていたという臨床研究の結果もあるぐらいだ。だから私は、年に1回、実際に患者が自分の吸入器を使って吸入するところを確認させてもらうことにしている。 正しい手技や手順を人に教えてその通りに実行してもらうことはなかなか難しいのだが、最近では標準的方法を見せる動画が利用できるようになったので、だいぶ楽にはなった。例えば、環境再生保全機構や日本喘息学会のウェブサイトには吸入器の種類別に正しい吸入方法の動画が収載されており、参考になる。