<喘息の吸入器1個がCO2換算28キロの温室効果ガス排出?>地球に配慮した治療が世界の「新たな目標」、自分と自然のためにできること
家庭医が果たす役割
プラネタリーヘルスについては世界の家庭医たちが取り組んでいるが、中でも積極的なのがアイルランド家庭医学会である。学会の持続可能性作業部会が22年に公開した『Glas Toolkit』(現在は23年5月版。「Glas」はゲール語で「緑」の意味)には、プラネタリーヘルスのために家庭医と診療所チームがどのような役割を果たしたら良いかの具体的な推奨が掲載されている。しかも、新しい多くの臨床研究のエビデンスをもとに継続して改訂がされているのも嬉しい。前述のアイルランドでの吸入器の調査も『Glas Toolkit』の著者らが実施したものだ。 その内容には、次のようなトピックでのエビデンスと推奨が含まれている。 適切な吸入薬と抗菌薬の処方と廃棄、処方内容の見直しガイドライン、適切な診断検査と自己管理、臨床の意思決定に役立つ参考文献とエビデンス、スクリーニング、過剰診断、過剰検査などの臨床情報の定期的な更新、適切な患者教育、心身の健康に対する地域社会の支援(社会的処方)、臨床家と患者との協働、アクティブ・トランスポート(化石燃料を使用しないウォーキングやサイクリングなどの自走式移動手段)、生活習慣改善、全粒穀物と豆類など植物ベースの食品摂取の促進、そして禁煙、患者のためのグループ活動、健康の社会的決定要因、ヘルスリテラシー、住宅、教育、環境保全などの健康の決定要因に対処する政策提言、エネルギーコストの削減、薬剤経済学、医療における無駄と費用の削減。 グローバルに見てみると、プラネタリーヘルスに興味を示したり活動している医師には、プライマリ・ヘルス・ケアを専門とする家庭医が多い。アンディー・ハインス卿も英国の家庭医であり、地球の気候変動がさまざまな形で健康を悪化させることを警告した最初の一人だった。 「大惨事を回避するには、より多くの資源と政策の根本的な変更が必要である」と1991年出版の英国医学雑誌『BMJ』で説いている。2022年には、彼は環境科学でのノーベル賞とも言われる「タイラー賞」を受賞した。