彬子女王殿下が、ロンドン郊外の空港のチェックインで「さんざん待たされた」特別な理由とは?
現在、皇族としてのご活動だけでなく、日本美術史の研究者としても活躍される彬子女王殿下が、英国のオックスフォード大学マートン・コレッジに留学中のある日のこと。 ロンドン郊外の空港を利用されたときに、一緒に行かれた日本の友人の方々は、赤や紺のパスポートでスムーズにチェックインが終わったのですが、なぜか彬子女王殿下のパスポートだけが「なかなか通らない」という体験をされたそうです。いったいその理由とは――。 ※本稿は彬子女王著『赤と青のガウン』(PHP文庫)より、一部を抜粋編集したものです。
パスポートは茶色で、外交官がもつものと同じ
皇族は「日本国民」ではない。戸籍や住民票はないし、国民健康保険には加入させてもらえない。だから海外旅行をするときに発行されるパスポートも、普通の赤や紺の表紙のものではない。 表紙に「外交旅券」と書いてある茶色のパスポートで、外交官がもつものと同じである。外交官は個人旅行用の普通の旅券と、仕事用の外交旅券の2冊をもっているそうだが、私はこの外交旅券1冊だけ。そして、海外渡航の際には基本的に1回限りしか使えないものを渡される。 つまり、普段は海外旅行をするたびに新しいパスポートを発行してもらわなければならないのである。でも留学中はいつ英国から外に出るかわからない。そういうわけで、留学期間中有効で、どの国にも渡航可能な外交旅券をつくってもらっていた。 さて、空港でチェックインするときにこの茶色いパスポートを出すと、大きく分けて3通りの対応をされる。まったく意に介しない人、気づいてパスポートと私の顔を見比べて「にやっ」とする人、このパスポートが何かわからず解明しようとする人である。 オランダのライデン大学で開催される考古学のワークショップに出席するために、ロンドン郊外のスタンステッド空港でチェックインをしたときのこと。一緒に行った日本の友人たちは赤や紺のパスポートでスムーズにチェックインが終わる。でも私のパスポートはなかなか通らない。 担当のおばさんが、茶色のそれをひっくり返したり、赤い光に当ててみたり、パソコンに何やら打ち込んでみたり。ついには同僚を呼んでこそこそ相談している。どうやら外交旅券をみたことがない様子。格安航空会社がメインの空港なので、外交官が乗り降りするようなことはほとんどないのかもしれない。 さんざん待たされた挙句 、「何の問題もないと思うけど、ちょっと待っていて」といい残し、私のパスポートをもって奥に消えていった。5分後、涼しい顔で戻ってきて椅子に座るおばさん。そして私の目をみつめてひと言、「あなたほんとうにプリンセスなの?」。 「そうですけど......」と答えると、「まあ、光栄ですわ!」とカーティシー(軽く膝を曲げてするお辞儀)をしながらチケットを発行してくれた。