任意後見人のトラブル事例5選! 対処法から未然に防ぐ方法まで解説
認知症などによる判断能力の低下に備えて任意後見制度を利用する場合、任意後見人とのトラブルが発生する可能性があります。任意後見人に関するトラブル事例やその対処法、未然に防ぐ方法などを弁護士が解説します。
1. 任意後見人とは
「任意後見人」とは、任意後見制度において、本人に代わって財産管理や身上監護に関する事務を行う人を指します。具体的には、本人の預貯金を管理して家賃や水道光熱費などの支払いのほか、不動産を売却する手続き、入院や施設入所の手続きなどを行います。 任意後見制度を利用するには、あらかじめ本人と任意後見受任者、つまり将来、任意後見人になる人との間で代わりにやってほしいことを定め、公正証書で契約を結びます。この契約を「任意後見契約」と言います。 任意後見契約は、本人の判断能力が低下した際、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任されて初めてその効力が生じます。任意後見監督人とは、任意後見人が任意後見契約の内容どおりに仕事をしているかを監督する役割を担う人です。そして、任意後見人は契約の効力が生じたときから、任意後見契約で委任された事務を本人に代わって行います。 任意後見人には、未成年者や破産者、本人に対して訴訟を起こしている人やその配偶者、直系血族など、法律が任意後見人としてふさわしくないと定めている欠格事由に該当しない限り、誰でもなることができます。そのため、子や兄弟姉妹、姪、甥などの親族や友人など、信頼できる人物を後見人に指定できます。
2. 任意後見人のよくあるトラブル事例
任意後見人は本人の財産を扱うという性質上、以下のようなトラブルが発生する場合があります。 ・任意後見監督人の選任申立てがなされず、任意後見契約が始まらない ・任意後見監督人への報告義務を怠る ・契約内容が不十分で、希望どおりに財産管理をしてもらえない ・任意後見人が財産を使い込んでしまう ・任意後見人と任意後見監督人の相性が悪い 2-1. 【事例1】任意後見監督人の選任申立てがなされず、任意後見契約が始まらない 本人の判断能力が低下し、任意後見契約の効力を発生させる必要が生じているものの、任意後見監督人の選任申立てがなされないケースです。 本人の判断能力が低下した際には、本人や任意後見受任者などが、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てをします。申立てがされると、家庭裁判所は本人の心身の状態や生活状況、本人の意見などをふまえて総合的に判断し、任意後見監督人を選任します。そして、これに合わせて任意後見人の事務が始まります。 逆に言えば、任意後見監督人選任の申立てをしないと、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することはなく、任意後見人の事務も始まりません。 その結果、不動産の売却ができない、家賃や水道光熱費などの費用を滞納するなど、本人の希望する財産管理がなされない事態が生じます。 実際、任意後見契約の契約数は、2021年から2023年までの3年間の年間平均が1万4422件であるのに対し、任意後見監督人選任の審判は同期間中の年間平均で741件しかありません。2020年以前のデータを見ても、近年は件数や割合は大きくは変わらず、実際に契約が発効するのは契約数の5%程度しかありません。 必要性が生じているにもかかわらず契約が発効していないケースが少なからず存在していると考えられます。 2-2. 【事例2】任意後見監督人への報告義務を怠る 任意後見人は、任意後見監督人に対して、財産の管理状況、本人の生活や療養看護に関する措置、費用の支出および使用状況などを定期的に報告しなければなりません。そして、このような報告をするためには、日々の収支や作業内容を逐一記録する必要があります。 しかし、親族、特に本人と親子関係にある人物が任意後見人になると、財産を管理するにあたって緊張感が生まれにくく、「他人の財産」であるという意識が乏しくなるケースも少なくありません。その結果、任意後見監督人に対する報告を怠りがちになります。 報告を怠っていると、「任意後見契約に関する法律8条」に則り、本人や任意後見監督人の請求によって任意後見人を解任されます。 2-3. 【事例3】契約内容が不十分で、希望どおりに財産管理をしてもらえない 任意後見制度は、認知症などによって判断能力が低下する場合に備えて、任意後見人を指名し、どのような支援をしてもらうのかを契約で決めておく「自己決定」を尊重する制度です。そのため、任意後見人が本人の代わりにできることは、契約で代理権が与えられている事項に限られます。なお、代理権が与えられる事項の一覧を「代理権目録」と言います。 代理権目録の内容が不十分である場合、任意後見人の代理権が認められず、希望どおりに財産管理をしてもらえません。たとえば、代理権目録に不動産の処分に関する事項の記載がない場合には、不動産の売却代金を老人ホームへの入居金に充てる予定であったにもかかわらず不動産が売却できない、といった事態があり得ます。 2-4. 【事例4】任意後見人が財産を使い込んでしまう 任意後見人となった以上、「他人の財産を管理している」という意識を持つことが大切です。 しかし、親族が任意後見人になると、そのような意識が乏しくなるケースも少なくありません。その結果、軽い気持ちで本人の財産を流用し、それが常態化して多額の使い込みに発展する事例があります。 弁護士、司法書士および社会福祉士といった専門職による横領事件が発生することもありますが、最高裁判所事務総局家庭局実情調査の「後見人等による不正事例」の統計に記載されているとおり、専門職以外による不正事例の件数が多いのが実情です。