自転車BMXレーシングパリ五輪「金」榊原爽さんの母・由紀さん①…レース漬けの日々並走「やりたいこと伸ばす、それだけ」
パリ五輪・自転車BMXレーシング女子で金メダルを獲得した榊原爽(さや)さん(25)。日本で競技を始め、オーストラリア代表として快挙を成し遂げた歩みを、母・由紀さん(57)に振り返ってもらった。 【画像】愛用のBMXにまたがる榊原爽さん(2024年2月、オーストラリア・ブリスベンで)=由紀さん提供 (C)Mitch Ramm
起伏に富んだ全長400メートルのコースを8人の選手が自転車で跳ぶように走り抜けていく。高さ8メートルのゲートから一気に駆け降り、時速60キロものスピードでタイムを争うレース。パリ五輪の決勝が行われた8月2日、序盤からトップに立った爽さんがリードを広げてフィニッシュする姿を、由紀さんは、英国人の夫マーティン・ウォードさん(61)と観客席で見守った。
「絶対に勝てると思ってはいたものの、瞬間、現実なのか信じられないような気持ちになって」 両手を突き上げて跳び上がり、ハグした夫は涙を流していた。 爽さんは、1999年8月、オーストラリア東部ゴールドコーストの自宅で家族に見守られて産声を上げた。 「4300グラムのビッグベビーで、コアラのようにどっしりしていました」
由紀さんが夫と出会ったのもオーストラリア。ワーキングホリデーを利用してシドニーの日本語学校で教師をしていた時、生徒としてイギリスから来ていたのがマーティンさんだった。 94年に結婚し、ゴールドコーストで暮らしていたが、ビザの関係で、2001年春、由紀さんの実家がある東京都府中市に一家で引っ越した。 爽さんはまだ2歳になる前。3歳違いの兄魁(かい)さん(28)をまねて戦隊ヒーローの変身ポーズを決め、後を追いかけては、兄のすることを何でもやりたがった。 BMXを始めたのも兄の影響だった。オーストラリアでクラブチームに入っていた魁さんが日本でも大会に出たがったため、約40キロ離れた専用コースまで何度も車を運転して連れて行った。 「魁が練習している間、爽はコース脇でもっぱら泥団子作りに熱中していましたね」 4歳でレースに初挑戦した爽さんは、アップダウンの激しいコースでうまくジャンプができずに3回転倒。大泣きしてしばらくは自転車に乗ろうともしなかった。 それでも、数か月たって「また乗りたい」と言い出してからは、かけっこでは負け知らずの運動神経とバランス感覚で頭角を現した。男の子に交じって順位を競い、負けず嫌いに火がついた。