サーフィン歴45年の俳優・宍戸 開が60歳で“全日本大会”に挑戦。筋トレは週7、頼るのは本能
「2世ブームの特権だった」と本人が振り返るとおり、中井貴一主演のNHK大河ドラマ『武田信玄』がデビュー作。それを皮切りに、それから数年は芸能界に没入することになる。 「大学も中退していたんで、映画やドラマの撮影現場がまるで学校でした。演技のノウハウを集中的に叩き込まれ、俳優の世界に魅了されました。昭和のノリで、休みの前日は朝までスタッフと飲みに行くのも当たり前。いわゆる『現場百回』ってやつです」。 大河ドラマ出演の翌年には銀幕デビューを果たし、「日本アカデミー賞」の新人俳優賞受賞。その後、数々のドラマにさまざまな役で出演し、タレントとして「10代目くいしん坊、万才!」や大正製薬のCM「リポビタンD」で強く記憶に残る作品で活躍した。 「俳優業も、僕にとっては波乗りと同じです。舞台『天守物語』では坂東玉三郎さんの相手役をやって、『カラミティ・ジェーン』では黒柳徹子さんの相手役を努めました。大御所の役者の方と仕事をするときは緊張感があるし、それなりの備えも必要。俳優という現場での、まさにビッグウェーブですね」。
そして、どんなに忙しくなっても、芸能界の隙間を狙いサーフィンを続けてきた。 「CMのロケでオーストラリアやハワイに行けば、昔は撮休を狙ってサーフィンをやってました。外国の海には、波の高さが6~8フィート(約2m)越えるものもあります。めちゃくちゃ怖いんですよ。ビビって漏らすこともしょっちゅう(笑)。 訓練してたって、一歩間違えれば死ぬ世界です。でも、その恐怖に打ち勝つのが、また快感だったりするんですよね。そして、やっぱりその快感は陸のうえではどうしても得られない」。 サーフィンに虜になった45年の想いが溢れ出す。 「海に2時間いたとしても、せいぜい波に乗れる時間は30秒もない世界なんですよ。1回の波で5秒乗れればラッキーな方。でもまれに、チューブに入れることもあって、母親の胎盤に包まれたようなスローモーションの世界を体験できる。 うわーっ!! なんだこれはーー!!!!って、いろんなことが頭を駆け巡る、あの何ともいえない一体感。 人間も地球の一部っていうか、理性とか人間である前に、生き物であれっていう。やっぱり、僕が戻る場所は海なんです」。
◇ 2年後のカフナへの挑戦。そこに照準をあわせつつ、芸能でも海でも、いついい波が来てもいいフォームで捉えられるよう、精神と肉体を鍛える。俳優・宍戸 開さんの現在地を覗いたら、飄々とした力強さの根源を垣間見た気がした。 笹井タカマサ=インタビュー写真、ぎぎまき=取材・文
OCEANS編集部